ブックマーク / honz.jp (177)

  • 『情熱でたどるスペイン史』めまいがするほど複雑な歴史を、「情熱」という養分で解き明かす - HONZ

    「静かな情熱を湛えている」というとかっこいいけれど、卓をはさんで目の前にいても「あら、あなたまだそこにいたの」とから言われるくらい普段存在感が薄くて、激しい情熱とは無縁の私。そんな私が『情熱でたどるスペイン史』という、ちょっと恥ずかしい表題の書物を公にしてしまったのはなんでかなあ、と思わないでもありませんでした。 しかしその恥ずかしさを打ち消すように文献を読み漁り、必死に考えをまとめてできあがった書には、やはりこのタイトルこそがふさわしいと、今は思っています。 「情熱のスペイン」という惹句は、たしかに観光案内やテレビ旅行番組ならともかく、中高生を対象にした真面目な書物には不適切だと注意されるかもしれません。そして情熱のほとばしるスペイン人の活動として、フラメンコに闘牛、レアル・マドリードやバルサのサッカーへの熱狂、カルメンやドン・フアンの激しい恋愛、こんなものを取り上げていては、ス

    『情熱でたどるスペイン史』めまいがするほど複雑な歴史を、「情熱」という養分で解き明かす - HONZ
  • つまらない仕事を減らせ──『NO HARD WORK!: 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方』 - HONZ

    『小さなチーム、大きな仕事』の著者(というか会社)による最新作は、たくさん働いたって成果なんか上がらないしやめようぜ、休暇もいっぱいとろうぜ、という一労働者としては至極ありがたい思想を具体的なメソッドに落とし込んだ一冊である。 著者の一人デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンはRuby最大のWebフレームワークであるRuby on Railsの開発者であり、僕もRubyでWebアプリを書く時には開発でお世話になっている。その尊敬の気持ちもあって、彼らのは読むようにしているのだが、シンプルな原則、思想によって「会社」というものが設計されていて、新刊を読むたびに新たな発見がある。 今回も主張はとてもシンプルだ。たくさん働くのなんて効率が悪い、やめようぜ、というただそれだけの話である。でもそれだけのことが現代社会ではうまくいかない。仕事が積み重なっていることもあるし、価値観の問題のケースもある

    つまらない仕事を減らせ──『NO HARD WORK!: 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方』 - HONZ
  • 『生き残る判断 生き残れない行動』知識も準備も経験も、危機を察知できてこそ活きる - HONZ

    書は災害復興についてのではない。災害の最中にーー警察や消防士たちが到着する前に、レインコートを着た記者たちがやってくる前に、惨事に対する何らかの見方が押しつけられる前にーー何が起こるのかについて述べたである」 災害・テロ・事件・事故。もしもの時の、とっさの判断が書のテーマである。有事に何をすべきかを並べたマニュアル的な内容ではない。なぜ、人は非常時に誤った判断をしてしまうのか。その背景には、人がそもそも持っている、どのような思考のクセが影響しているのか。そんな根から考えていくスタンスが特徴だ。さまざまな惨事から生き延びた人々へのインタビューに加え、社会学者、心理学者、脳科学者、神経科医、テロ対策専門家、警察官、消防士など幅広く意見を求めて得た知見を、まったく他人事に思えないエピソードの数々を通して伝えてくれる。 非常事態にまず起こりがちなこととして挙げられるのが「否認」である。

    『生き残る判断 生き残れない行動』知識も準備も経験も、危機を察知できてこそ活きる - HONZ
    wfunakoshi235
    wfunakoshi235 2019/01/22
    “生”
  • 『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』ファクトで満たせば、世界に希望が溢れ出す - HONZ

    作者:ハンス・ロスリング 翻訳:上杉 周作、関 美和 出版社:日経BP社 発売日:2019-01-11 世界はどんどんよくなっている。ウソだと思うかもしれないが当だ。実際に世界の人口のうち、極度の貧困状態にある人の割合は、過去20年で半分になった。そして、自然災害で毎年亡くなる人の数は、過去100年で半分以下にもなった。 この数字自体かなり驚くべきものであるが、さらに驚くべきなのは、この事実を3択問題として出題した時の正答率が、いずれも10%を下回ったことである。これを、単なる知識不足と片付けてよいのだろうか? 書は、世界に対する認識と実態との間におけるさまざまなギャップを提示し、先入観にとらわれず世界を見ることの大切さを訴える。さらにその原因を脳の機能に求め、人が世界を実際よりもドラマチックに見てしまうことを明らかにしていく。 著者は医師であり、そして公衆衛生の専門家でもあるハンス・

    『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』ファクトで満たせば、世界に希望が溢れ出す - HONZ
  • 『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』ドヤ顔で行ったら、浦島太郎だった - HONZ

    『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』ドヤ顔で行ったら、浦島太郎だった 表紙に、Mistletoeファウンダーで書を監修している孫泰蔵氏の、「ドヤ顔でエストニアに行ったら、浦島太郎だった」という言葉があるが、書の内容を思いきり短くまとめれば、そういうことだと思う。 日と同じような課題を抱えながら、ブロックチェーン技術を活用して、ほぼ100%の電子政府を実現し、ユニコーンと呼ばれる評価額10億ドル以上のベンチャー企業を次々と排出するエストニアに比べれば、今や日全体が浦島太郎状態なのである。 先日のJIC(産業革新投資機構)の取締役退陣劇や日産会長の逮捕劇に見られるように、もはや日は資主義のゲームでは周回遅れの国である。それでは、それに代わる新しい社会像を提示できているかと言えばそれもない。 シンガポール、イスラエル、中国の深センなど、世界では

    『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』ドヤ顔で行ったら、浦島太郎だった - HONZ
  • 『文系と理系はなぜ分かれたのか』単純だが、悩ましい分類のこれまでとこれから - HONZ

    理系か文系か、この二分法は、日常に浸透し、まるで血液型のように、はじめて会う人同士の話題になることが多い。そして、文系であるか理系であるかでレッテルを貼り、個人を理解しようとする。Wikipediaの「文系と理系」というページで展開されている「文系と理系を巡る観念的な印象」は、その代表例である。 4.1数学のできない「普通の」文系、それ以外の「特殊な」理系 4.2文系は優雅、理系は律儀 4.3文系は言葉で考える 4.4文系は前提の吟味をしない 4.5理系は会話下手 4.5.1理系男子は結婚できない 4.6理系にはオタクが多い 4.7男子は理系、女子は文系 (Wikipediaより引用) 得意科目ならまだしも、性格、コミュニケーション能力、就職や結婚の適性など、過剰に二分化されている。高校時代に明確な理由を持って文理を選択した人もいれば、なんとなく選択した人もいるだろう。しかし、文系であるか

    『文系と理系はなぜ分かれたのか』単純だが、悩ましい分類のこれまでとこれから - HONZ
  • ナニワの病理学教授の本! 『(あまり)病気をしない暮らし』 - HONZ

    『こわいもの知らずの病理学講義』が7万2千部に! ということでウハウハだという大阪のおっさんこと、ナニワのレビュワー仲野徹先生の新刊登場! 「2匹目のドジョウを狙う」と公言する今回は、ダイエットフェチとしての極意から、お酒との賢い付き合い方、風邪をひいたらどうするか、そしてがんにならないための生き方に至るまで、病気と健康をテーマに笑い語ります。 あのナカノ先生の書いたものであるからには、おもしろくないわけがないのであーる。 そんな期待大の気持ちで読みはじめたわけですが、その期待は裏切られず。笑撃とともに新たな知見を得て清々しく読み終えたのでありました。 昨今のダイエットなどによくあるように、「一点突破」で無理筋な内容を伝えるわけではまったくなく、身体が不調となる「病気」について、いったい何なのかを大から説いていきます。さすがの知識の土台に支えられつつ、時に東京ものにはよくわからないナニ

    ナニワの病理学教授の本! 『(あまり)病気をしない暮らし』 - HONZ
  • 『アナログの逆襲 「ポストデジタル経済」へ、ビジネスや発想はこう変わる』 - HONZ

    デジタルの先にあるアナログへ いま、さまざまな分野でアナログの魅力が再注目され、ヒットしている。たとえば、音楽でもCDの売上は落ち込む一方なのに、アナログ・レコードは世界的に人気が高まっており、売上も大きく伸びている。 こうした現象が興味深いのは、アナログ人気がけっして過去を振り返るノスタルジーではないことだ。今日のアナログ・ブームを牽引しているのは、幼い頃からデジタルに慣れ親しんでいる若い世代である。また、デジタルの最先端にあるGAFAグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの企業も、アナログ的発想を重視しはじめている。 そう、いま台頭している現象は、「デジタルの先にあるアナログ」であり、「ポストデジタル経済」へ向かう大きな潮流なのだ。 書は、第1部「アナログな<モノ>の逆襲」で、レコード、紙、フィルム、ボードゲームの人気を通して、こうしたアナログ・ブームの実態と背景を探る

    『アナログの逆襲 「ポストデジタル経済」へ、ビジネスや発想はこう変わる』 - HONZ
    wfunakoshi235
    wfunakoshi235 2018/12/11
    “教育”
  • 『貧困脱出マニュアル』本当にハングリーなやつは夢を見ることも許されない! - HONZ

    貧困は罪悪であり、病である。すべての悪の根源である。 タカ大丸は英語同時通訳・スペイン語翻訳者のポリグロット(多言語話者)である。テレビ出演も多いのだが、視聴者から「見た目が怪しい通訳」と言われているそうだ。だがその実力は折り紙付きである。2015年『ジョコビッチの生まれ変わる卓』でグルテンフリーという事の概念を紹介し、その後、大ブームとなったのはご承知のとおりだ。 タカ大丸が翻訳者として優れているのは、予測能力が高いことにある。これから“来るヒト・モノ”への嗅覚はすごい。さらに優れているのは分かりやすい日語翻訳である、ということだ。翻訳でよくある「何を言っているかよくわからない」日語ではなく、すらすらと体に入ってくる。 彼は貧しい家に育った。そのうえ父親のDVが激しく、新聞沙汰にまでなったことがあるという。冒頭は書の「まえがき」の言葉だが、貧困をなくすことが彼の生涯の悲願だと

    『貧困脱出マニュアル』本当にハングリーなやつは夢を見ることも許されない! - HONZ
  • 『「日本の伝統」という幻想』時代の変わり目を前にして - HONZ

    平成の終わりが近づいている。といっても、元号が変わるだけで、生活にドラスティックな変化が訪れるわけではない。が、それでも、平成の世、もっと言えば日がたどってきた道のりに思いを馳せてしまう人は多いのではないか。受け継がれてきた行事や慣習も一つの節目だ。どんな時代が来ようと大切に守っていかねばならない、でも中にはなんかモヤモヤするものもある――もしかしたら、今こそがそうした「日の伝統」をちょっと離れて考えてみるのに最適な時かもしれない。 書『「日の伝統」という幻想』は、昨年11月末に上梓された『「日の伝統」の正体』に続く第二弾である。『「日の伝統」の正体』は、日にある伝統と呼ばれるものの多くが実は明治時代以降の発明であることを調べ分類した一冊で、発売後反響を呼んだ(詳しくは筆者のレビューと著者インタビューをお読みいただきたい)。伝統という言葉の持つ魔力を読み解かんとしたこの前作を

    『「日本の伝統」という幻想』時代の変わり目を前にして - HONZ
  • 『日本4.0 国家戦略の新しいリアル』エドワード・ルトワックによる新提言 - HONZ

    米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問で戦略家のエドワード・ルトワックの新刊である。前著『戦争にチャンスを与えよ』は紛争が長引く原因として、人道的支援という美名の下で国際社会が紛争に早期介入するためだという、口にしがたい現実を鋭く指摘して話題になったので、記憶している方も多いのではないだろうか。 前著の内容を知らず「それはどういうことだ?」と疑問に感じた人のために改めて簡単にではあるが著者の主張を解説してみると、紛争当事者たちが疲弊しきる前に国際的な圧力を加え早期講和を結ばせても、勝ち負けが判然としない上に物心双方において戦う力が余っているので小競り合いが何十年も続いてしまうといった内容だ。 人道支援のために国連などから支給された支援物資が戦闘員に横流しされた挙句にゲリラが難民キャンプなどを活動拠点するなどし、劣勢に立たされている側が完全な敗北を免れているために、負けを認めずズルズルと小

    『日本4.0 国家戦略の新しいリアル』エドワード・ルトワックによる新提言 - HONZ
  • 『大戦略論』戦略論の新たなる古典 - HONZ

    近年の中国の経済的・軍事的台頭、イギリスのEU離脱とアメリカ政治的混乱、そして貿易戦争 から始まった米中冷戦の時代を予感あるいは意識してか、この十年間に戦略書が、英語で書かれたものだけを見ても、続々と出版されている。その中でも出版国で評判が高く、日で翻訳されたものが二冊ある。 一つはローレンス・フリードマン(2018)『戦略の世界史(上・下)』(日経済新聞出版社、 原著は2013年刊)であり、もう一つが今、読者が手にされている書である。前者の翻訳が出るのに5年かかったのは、751頁と大著であるからだろう。書は、その半分ぐらいだが、今年の4月に出たばかりで、いくつかの書評によれば評価は高いようだ。両書とも、戦略論の分野の古典になると思う。 著者のジョン・L・ギャディスは、テキサス大学オースティン校で歴史学の博士号を取得後、オハイオ大学教授、アメリカ海軍大学校客員教授などを経て、『大

    『大戦略論』戦略論の新たなる古典 - HONZ
  • 『海の歴史』未来は宇宙よりも海 - HONZ

    海から眺める人類史を一冊にしたで、海好きにはたまらない内容だ。海については、生活・科学・文化・物流・軍事などの様々な視点から数多くの書籍が出版されているが、これまで海の歴史を網羅的かつ包括的にまとめた書物はほとんどなかった。今回その壮大な歴史をまとめあげたのが、知の巨人ジャック・アタリ。壮大な世界観の歴史書を書かせれば彼ほどの適任者はいない。 書は、130億年前の宇宙と水の誕生という地球科学から始まり、動物や人類の誕生という生物史、ローマ帝国や中国王朝という権力者による海の支配史、蒸気船やコンテナ船という海を舞台にしたビジネスイノベーション、海を中心に広がる環境汚染問題と多岐にわたる題材を取り扱う。それぞれのトピックで一冊のが仕上がるほどの内容が、一冊に詰まっているのだ。 「人類の将来にとってより重要なのは、宇宙の探査よりも海だ」と著者は強調する。たしかに書のように海という視点から

    『海の歴史』未来は宇宙よりも海 - HONZ
  • 『現代経済学 ゲーム理論・行動経済学・制度論』経済学はどこに向かうべきなのか? - HONZ

    経済学とは何か?―こんなシンプルな質問にさえ、今の経済学は答えるのが難しい状況にある。かつて、個々の経済主体の行動から経済全体の動きを理解するミクロ経済学と、GDPなどの集計量から経済全体の動きを扱うマクロ経済学の二つが主流だった頃には、「経済現象を対象とし、それを解明する学問」で済んだものが、20世紀半ば以降、従来の主たる研究対象だった市場メカニズムだけでなく、企業のような市場以外の経済制度も分析対象とするようになり、急速に多様化・複雑化していった。そして、過去30年の間に、書の副題にあるようなゲーム理論や行動経済学や制度論といった新しい手法が次々と生まれてきた。 こうした中で、書は、経済学とは何かという答えを示す代わりに、現在の経済学の広範で多様な様相を整理することで、そもそもなぜこの問いに対して簡潔に答えるのが難しいのか、経済学はなぜそれほどまでに複雑になったのか、そして経済学

    『現代経済学 ゲーム理論・行動経済学・制度論』経済学はどこに向かうべきなのか? - HONZ
  • 医師にも患者にもバイアスだらけ 『医療現場の行動経済学』 - HONZ

    京都大学の庶佑特別教授のノーベル医学生理学賞受賞が決まり、日中が湧いている。この素晴らしい快挙の一方で、医療現場では混乱も生じているようだ。がん治療の現場で、医師が手術を選択したにも関わらず、患者側からオプジーボを使用したいと相談があるようなのだ。なぜ、患者側はそう考えるのか。書は、その「なぜ」に答えるである。 当然のことだが、医師はオプジーボの存在は知りつつ手術を選択している。冷静に考えれば、患者もそれはわかるだろう。しかし、生きるか死ぬかの瀬戸際で、毎日のように「オプジーボで命を救われました」という報道を目にしている患者の気持ちもわかるような気がする。 このような医療現場の意思決定について、現在の医療ではインフォームドコンセント(説明と合意)という手法が一般的にとられている。しかし、情報さえ提供すれば、患者は合理的な判断をできるのだろうか。書の執筆チームは、ここに昨年ノーベル

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  • 『サカナとヤクザ』ニッポンの食卓を支える、魑魅魍魎の世界 - HONZ

    裏社会のノンフィクションはこれまで何冊も読んできたが、最も面白みを感じるのは無秩序のように思える裏社会が、表社会とシンメトリーな構造を描いていることに気付かされた時だ。 しかしここ数年は暴対法による排除が進み、ヤクザの困窮ぶりを伝える内容のものばかり。相似形どころか、このまま絶滅へ向かっていくのかとばかりに思っていた。だから彼らがこんなにも身近なところで、表社会とがっちりスクラムを組んでいるとは思いもよらなかったのである。 書は、これまでに数々の裏社会ノンフィクションを描いてきた鈴木智彦氏が、サカナとヤクザの切っても切れない関係を、足掛け5年に及ぶ現場取材によって描き出した一冊だ。 これまでなぜか語られることのなかった品業界最大のタブーを真正面から取り上げながら、一ミリの正義感も感じさせないのが、著者の真骨頂である。そして、もはやヤクザの世界に精通していなければ読み解けないほど、サカナ

    『サカナとヤクザ』ニッポンの食卓を支える、魑魅魍魎の世界 - HONZ
  • 『江戸の目明し』時代劇のファンタジーを吹き飛ばす - HONZ

    銭形平次、人形佐七、三河町の半七…テレビドラマや小説で人気の親分たち。近年では中村梅雀さん演じる黒門町の伝七がよかったなあ。かつて同じ伝七を演じて大ヒットを飛ばした父上・中村梅之助さんから、亡くなる直前に秘蔵の十手コレクションを託されていたとか。劇中で使われていたのがその十手なのかどうかは定かではないが、紫房の十手を大切に神棚に祀る姿は、亡き父上への敬意を胸にこの役を受け継いだのであろうと思われて、なおさら感動し楽しく拝見した。いいねえ、時代劇。江戸の人情。人の世は情。そして正直、まっつぐこそ庶民の心意気…。「よよよい、よよよい、よよよいよい!めでてぇな!」 ところが!岡っ引き、すなわち目明しの実態は、ドラマや小説とはかけ離れているのだという。そもそも十手は用がある時だけ貸し出され、捕り物が済んだら取り上げられるので神棚に祀るなんて無理無理。いやそも、建前では目明しは「存在しない」。いない

    『江戸の目明し』時代劇のファンタジーを吹き飛ばす - HONZ
  • 『失われゆく日本 黒船時代の技法で撮る』縄文時代から受け継がれてきた知恵にこそ、現代の問題を解決するヒントがある - HONZ

    『失われゆく日 黒船時代の技法で撮る』縄文時代から受け継がれてきた知恵にこそ、現代の問題を解決するヒントがある エバレット・ケネディ・ブラウン氏は、現代では極めて稀な湿板光画を使ったフォトジャーナリストである。湿板光画とはガラスに感光溶剤を塗布した板で写真を撮影する技法で、1850年代から普及し、乾板写真が発明される1870年代までの短い期間使われていた。日にも、江戸幕末期の安政年間(1854-1860年)の初めに輸入され、墨絵のような表現力で味のある世界を数多く映し出してきた。 エバレット氏は現在、京都近郊で滋賀県の月心寺に居を構えながら、1860年代に作られた古いカメラとレンズを使って、自身が「タイムマシン」と呼ぶこの湿板光画の技法で時を超えた日の記録に取り組んでいる。 生まれはアメリカのワシントンD.C.で、若い頃に世界中を旅して回り、29歳の時に日移住し、一時はEPA通信

    『失われゆく日本 黒船時代の技法で撮る』縄文時代から受け継がれてきた知恵にこそ、現代の問題を解決するヒントがある - HONZ
  • 『土・牛・微生物 文明の衰退を食い止める土の話』 - HONZ

    書はデイビッド・モントゴメリー著“Growing a Revolution”の全訳であり、『土の文明史』『土と内臓』(ともに築地書館)に続く三部作の完結編である。三作はいずれも、人間社会とそれを包括する文明と環境を、「土」という共通の切り口で解読したものだ。 一作目『土の文明史』では、世界の文明の盛衰と土壌の関係を。世界中のさまざまな時代と地域を検証した著者は、土壌が文明の寿命を決定し、土を使い果たしたとき文明は滅亡するという結論に達した。現代文明においても、農業生産性を上げるために化学肥料や農薬、機械力を集中的に投入するほど、土壌は疲弊し、やがては生産に適さなくなる。しかし化学製品の投入量を抑え、土壌肥沃度を高めながら、今後の人口増加に対処して糧を増産するような方向へと転換することは可能なのだろうか。われわれの文明が滅亡を回避するための道として、土の扱いを変えることを提唱しながらも、

    『土・牛・微生物 文明の衰退を食い止める土の話』 - HONZ
  • 『交雑する人類』 古代DNAが世界史を書き換える! - HONZ

    ゲノム革命は我々の想像を超える速度で進行している。ワトソンとクリックが生命のセントラルドグマを解き明かしてからわずか半世紀と少しの間に、PCRやCRISPR−Cas9などの革新的な技術が次々と開発され、SFの世界にしか存在しないと思われたような成果を次々と現実のものとしている。遺伝子共有サイトのデータが迷宮入りしていた凶悪犯罪の犯人を追い詰めたという事例にも見られるように、その影響は多岐にわたり、私たちの生活のあらゆる面を大きく変える力を持つ。 中でも2009年以降に急速に発展した古代DNAの全ゲノム研究の発展は特筆に値する。この分野はマックス・プランク進化人類学研究所のスヴァンテ・ペーボによって確立され、ネアンデルタール人と現生人類の直接の祖先が交配していたことを明らかにした。だが、古代DNA解析が明らかにするのは、単に各種旧人類とホモ・サピエンスとの交雑の有無だけではない。古代DNA革

    『交雑する人類』 古代DNAが世界史を書き換える! - HONZ