ブックマーク / honz.jp (177)

  • 最新イギリス書店事情は『英国の本屋さんの間取り』で! - HONZ

    英国の屋さんの間取り 作者: 清水 玲奈 出版社: エクスナレッジ 発売日: 2024/7/4 2016年以降、イギリスで書店の数が増え続けているという。書店の減少が止まらなかった2010年頃から何がいったい変わったのだろう。コロナ禍が明けた頃、2023年1月6日のBBCニュースは「20年ほど続いた書店の減少に、確実に歯止めがかかった」と報道、この同じ年にイギリスでは51軒の独立系書店が創業したという。 もちろん古い個性派書店も多いお国柄だが、そういう店ほどうまくリセットして再出発している感さえある。そんな新旧19軒の屋さんを、1996年の渡英以来、書店や出版、カルチャー系を追い続けてきたジャーナリストの清水玲奈さんが、追う。 個性派書店と言っても、当たり前だが紹介される19軒は多種多様で、成り立ちもそれぞれだ。 例えば、LV MHグループの出資を受けた出版社、アスリーンの豪華なビジュ

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  • 無限大のドルを求めた果てに逮捕された男の転落記──『1兆円を盗んだ男』 - HONZ

    1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊 作者: マイケル・ルイス 出版社: 日経BP 日経済新聞出版 発売日: 2024/6/26 この『1兆円を盗んだ男』は、『マネー・ボール』や『最悪の予感』などで知られるマイケル・ルイスの最新作。今回彼がテーマに選んだ人物は暗号資産取引所FTXを立ち上げ莫大な富を築き上げた後、2022年に逮捕されてしまった男サム・バンクマン=フリードだ。 マイケル・ルイスといえば複雑な題材であっても見事な一筋の通ったストーリーに仕立て上げるノンフィクションの名手だ。しかし、書ではさすがにそうもいかなかったらしい。最終的には年間で10億ドルもの利益をあげるようになり、20代で長者番付にも名を連ねた暗号資産の若き天才に幼少期から迫る──というプロローグながら、マイケル・ルイスの取材中にFTXは破産。 その後、サムはFTXの破産と関連した詐欺やマネーロンダリングを

    無限大のドルを求めた果てに逮捕された男の転落記──『1兆円を盗んだ男』 - HONZ
  • 『絶海――英国船ウェイジャー号の地獄』訳者あとがき - HONZ

    絶海: 英国船ウェイジャー号の地獄 作者: デイヴィッド・グラン,David Grann 出版社: 早川書房 発売日: 2024/4/23 書『絶海――英国船ウェイジャー号の地獄』は、2023年にダブルデイ社から刊行されたデイヴィッド・グランのノンフィクション、The Wager: A Tale of Shipwreck, Mutiny, and Murder の翻訳である。 原書は、刊行された2023年4月からこれまで40週以上連続でニューヨーク・タイムズのベストセラーリストにランクインしている。オバマ元大統領の2023読書リストに選ばれた他、CBSニュースの番組「60ミニッツ」が書と著者グランの特集番組を制作放映。ウォール・ストリート・ジャーナル、GQ、エコノミスト、ボストン・グローブ、ニューヨーク・タイムズ、トロント・スター、ロサンゼルス・タイムズ、ニューヨーク・マガジン、タイ

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  • 『トヨタ 中国の怪物』トヨタの中国進出と創業家世襲に秘められた歴史 - HONZ

    トヨタ 中国の怪物 豊田章男を社長にした男 作者: 児玉 博 出版社: 文藝春秋 発売日: 2024/2/7 一見関係のないものを掛け合わせると、思いもよらない新しいものが生まれることがある。書は「中国現代史」と「トヨタ創業家の歴史」を組み合わせることで、これまでにない角度からトヨタの核心部分を描くことに成功している。 異質なものを掛け合わせるには触媒が必要だが、書では、ひとりの男性がその役割を務める。男の名は、服部悦雄。”低迷していたトヨタ中国市場を大転換させた立役者”であり、”トヨタを世界一にした元社長、奥田碩を誰よりも知る男”であり、”創業家の御曹司、豊田章男を社長にした男”でもある。そんなキーパーソンへの長時間にわたるインタビューをもとにまとめられたのが書だ。 このには読みどころがふたつある。ひとつは、中国現代史の暗部を身をもって体験した服部の貴重な証言。そしてもうひとつ

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  • 『世界から青空がなくなる日』 自然のコントロールをコントロールする - HONZ

    世界から青空がなくなる日:自然を操作するテクノロジーと人新世の未来 作者: エリザベス・コルバート 出版社: 白揚社 発売日: 2024/1/26 アメリカのミシガン湖とデス・プレインズ川をつなぐシカゴ・サリタニー・シップ運河。およそ45kmにわたるその川の一画に、不穏な看板が掲げられている。「危険」、「この先、魚用の電気バリアあり。感電の危険大」。しかし、それほど危険な電気バリアがなぜ川に仕掛けられているのだろうか。 その理由は、わたしたちと自然の複雑な関係を象徴している。サリタニー・シップ運河がまだ存在しなかった19世紀、シカゴ市の汚水はシカゴ川に垂れ流され、最終的にはミシガン湖へ流れこんでいた。だが、ミシガン湖といえば、当時もいまもシカゴ市唯一の飲料水源である。そこで、20世紀初頭に運河を開通させ、川の流れを逆転させることにしたのである。 図 シカゴ・サリタニー・シップ運河の開通とそ

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  • 『かがくを料理する』:「サイエンス×工作×料理」のおいしい世界! - HONZ

    かがくを料理する (Make:Japan Books) 作者: 石川 繭子,石川 伸一,加賀 麗 出版社: オライリー・ジャパン 発売日: 2023/9/27 先般、東京出張の折に、はじめてHONZの朝会というものに参加しました。HONZのメンバーが原則(少なくとも今回は)ひとり一冊、今読んでいる、あるいはこれから読もうと思っているを持ち寄り、そのに対する期待やおもわく(?w)について語る会です。 で、そのときHONZレビュアーの首藤淳哉さんが、『かがくを料理する』というを持っていらしたのです。 いえね、「料理の科学」みたいな路線のなら、わたしもこれまで何冊も読んできたんですよ。でも、「かがくを料理する」ってなんだろ??? って不思議に思ったのです。今どき科学と料理を結び付けて新しいを出すのなら、分子調理(分子ガストロノミー)方面の実践的入門書かな? とわたしは思いました。(実

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  • 『あのとき売った本、売れた本』永遠に読んでいたい「本屋の裏話」 - HONZ

    あのとき売った、売れた 作者: 小出和代 出版社: 光文社 発売日: 2023/10/25 人生でもっとも長いおつきあいの書店は、紀伊國屋書店新宿店である。かれこれ35年。つきあいが長くなれば倦怠期だってありそうなものだが、半日滞在しようが、週に何度も通おうが、いまだに飽きることがない。行くたびに発見や刺激があるのだ。こんな素晴らしい場所、他にあるだろうか。 書は新宿店で25年間にわたり文学書売り場に立ち続けた名物書店員の回想録である。とにかく楽しいだ。読んでこれほど多幸感に浸れるも珍しい。趣味の合う友人と愛読書について夜通しおしゃべりしているような楽しさがある。懐かしい、記憶に残るフェアや売り場の話がこれでもかと出てくるのだから当然かもしれない。 1日の平均乗降客数353万人の新宿駅は、ギネスにも世界最多と認定されるほどのマンモス駅だ。そんな駅の駅前に店をかまえていれば、

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  • 『宗教の起源──私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』 ダンバー数、エンドルフィン、共同体の結束 - HONZ

    ロビン・ダンバーは、彼が提唱した「ダンバー数」とともに、その名が広く知られている研究者である。ダンバー数とは、ヒトが安定的に社会的関係を築ける人数のことであり、具体的には約150と見積もられている。ダンバーは、霊長類各種の脳の大きさ(とくに新皮質の大きさ)と集団サイズの間に相関関係があることを見てとり、ヒトの平均的な集団サイズとしてその数をはじき出したのであった。 さて、そんなダンバーが書で新たな課題として取り組むのが、「宗教の起源」である。人類史において、宗教はどのようにして生まれ、どのように拡大を遂げていったのか。宗教に関する広範な知識に加えて、専門の人類学や心理学の知見も駆使しながら、ダンバーはその大きな謎に迫っていく。 ダンバーも言及しているように、現生人類の歴史のなかで、宗教は個人や社会に対していくつかの利益をもたらしてきたと考えられる。その代表的なものを5つ挙げるとすれば、(

    『宗教の起源──私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』 ダンバー数、エンドルフィン、共同体の結束 - HONZ
  • 現在に至る種を広範囲にわたってまきつづけてきた悪魔的な天才──『未来から来た男 ジョン・フォン・ノイマン』 - HONZ

    アナニヨ・バッタチャリヤ (原著), 松井信彦 (翻訳) 出版社: みすず書房 発売日: 2023/9/21 この『未来から来た男 ジョン・フォン・ノイマン』はその名の通りジョン・フォン・ノイマンの伝記である。1903年生まれの1957年没。数学からはじまって、物理学、計算機科学、ゲーム理論、気象学など幅広い分野で革新的な成果をあげつづけ、史上最高の天才など、彼を称える言葉に際限はない。彼と同時代を生きた人物に、クルト・ゲーデルやアルベルト・アインシュタインなどそうそうたる人物が揃っているが、その三人すべてを知る人物も、フォン・ノイマンが飛び抜けて鋭い知性の持ち主だと思っていたと語る。 実際、それが誇張表現ではないぐらい彼が一人で成し遂げたことは凄まじかった。たとえば子どもの頃、フォン・ノイマンは古代ギリシャ語やラテン語をマスターし、母語のハンガリー語だけでなくフランス語、ドイツ語英語

    現在に至る種を広範囲にわたってまきつづけてきた悪魔的な天才──『未来から来た男 ジョン・フォン・ノイマン』 - HONZ
  • 科学はいまだに法律に導入されない 『人を動かすルールをつくる──行動法学の冒険』 - HONZ

    作者: ベンヤミン・ファン・ロイ,アダム・ファイン 出版社: みすず書房 発売日: 2023/5/18 わたしたちは法律や条例などのルールに囲まれて生きている。そして、それらの多くがわたしたちを深刻な危害から守ってくれていることは間違いない。だがその一方で、何らかの理由でルールがうまく機能していない場合も少なくない。ほとんどのドライバーが守っていない、ある道路での速度制限。日々新たに報じられる、企業のコンプライアンス違反。では、そうした一部のルールがあまり守られないのはどうしてだろうか。 書はその問題に真正面から挑んだものである。ただし、その挑み方は従来のものとは異なる。書は、「どうして人はルールを守らないのか」と問うたりはしない。そうではなく、人に一定の行動傾向があることを前提として、「どうして法的ルールは人の行動を改善できないのか」と考えるのである。 わたしたちには一定の行動パター

    科学はいまだに法律に導入されない 『人を動かすルールをつくる──行動法学の冒険』 - HONZ
  • 『アナロジア AIの次に来るもの』アナログ王国序説ーーデジタルを超えた次の時代を読む方法 - HONZ

    始まったばかりだと思っていた21世紀も、気がつけばすでに1/4が経過しようとしているが、われわれが未来の象徴のように思っていた「新世紀」は、9.11のテロで幕を開け、リーマンショック、3.11の未曾有の災害と続き、挙句の果ては新型コロナという感染症の流行と前世紀の冷戦の影を引きずるようなウクライナ戦争の勃発で先が見えない。 その一方でデジタル化やネット化が確実に進行し、スマホやSNSが広く社会に普及し続け、AI将棋や囲碁で人間の世界チャンピオンを打ち負かし、ついには誰もが、絵を描いてくれたり、ChatGPTのようなどんな質問にも卒なく答えてくれたりするAIソフトを自由に使えるようになり、コンピューターの能力が人間の知力を上回るとされる「シンギュラリティー」がもうすぐ実現するという声も聞かれる。 多くの人にとって、こうした「デジタル」が象徴するイメージは、AI仕事が奪われるという悲観論は

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  • 『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』 - HONZ

    『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』 一見、ライトノベルを思わせるタイトルだが、書は紛れもない実話である。ただし著者の半生は、まるでラノベの主人公のようにユニークだ。 著者は1992年千葉県生まれ。昔からどこまでも内向的で、考えすぎる人間だったという。そんな性格もあってか、大学受験や恋愛、就活の失敗などで心を壊し、大学を卒業した2015年からは、千葉の実家で引きこもり生活に突入。週一でバイトは続けていたが、それもコロナでなくなってしまい、さらに追い討ちをかけるように2021年からはクローン病という自己免疫系疾患の難病も患う。 驚くのはここからである。著者は引きこもりのかたわら、ルーマニア語を身につけ、2019年から小説や詩を書き始めた。その作品は現地の文芸誌に掲載されただけでなく、《Istoria literaturi

    『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』 - HONZ
  • 『ある行旅死亡人の物語』あなたは誰?身元をたどる渾身のルポルタージュ - HONZ

    「行旅死亡人」とは病気や行き倒れ、自殺等で亡くなった身元不明の死者を表す法律用語である。死亡人は身体的特徴や発見時の状況を官報に公告される。 映画やミステリー小説でも良く登場する”誰かわからない”遺体。その身元を新聞記者が突き止める過程を記したのが『ある行旅死亡人の物語』だ。 共同通信大阪社会部の遊軍記者、武田惇志は記事のネタ探しのため官報に掲載されている「行旅死亡人」のサイトを閲覧していた。そこで目に留まったのが亡くなったときの「所持金ランキング」。一位は尼崎市の自宅アパート玄関先で発見された七十代と思しき女性で、なんと現金で約3500万を持っており、さらに右手の指が全て欠けていたという。すでに火葬され遺骨は尼崎市が保管していた。 発見から一年以上経っていたが、続報は見つからない。市の保健福祉センターに問い合わせると、こんな答えが返ってきた。 「タナカチヅコさんの件ですね」 この人は生前

    『ある行旅死亡人の物語』あなたは誰?身元をたどる渾身のルポルタージュ - HONZ
  • なぜ一見何の利益もない嫌がらせ行為を行う人間が存在するのか?──『悪意の科学: 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』 - HONZ

    なぜ一見何の利益もない嫌がらせ行為を行う人間が存在するのか?──『悪意の科学: 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』 最近、仕事中のほとんどの時間は何らかのゲーム配信(最近はLeague of Legends)を垂れ流していることが多い。人気のストリーマーは数千、数万といった視聴者を集める。そうすると、一人用ゲームではない対戦系ゲームを配信で行っている配信者は、少なからぬ「嫌がらせ」行為に遭遇するものだ。 たとえば、配信者がゲームのマッチングを開始したのにタイミングを合わせてマッチング開始し、配信者とマッチングしたらその試合で通常ありえないえないゲームプレイをして負けに導いたり、挑発行為を繰り返したり、Apexのようなバトロワなら配信を見て位置を把握し集中攻撃をかけたりが行われるのである。 そうした悪意あるプレイヤーが、なぜ、自分にとってたいして利益があるようにも思えない悪意

    なぜ一見何の利益もない嫌がらせ行為を行う人間が存在するのか?──『悪意の科学: 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』 - HONZ
  • 『情報セキュリティの敗北史 脆弱性はどこから来たのか』 訳者あとがき - HONZ

    作者: アンドリュー・スチュワート、翻訳:小林 啓倫 出版社: 白揚社 発売日: 2022/10/12 書は2021年9月に出版された、A Vulnerable System: The History of Information Security in the Computer Age(脆弱なシステム――コンピュータ時代の情報セキュリティ史)の邦訳である。著者のアンドリュー・J・スチュアートは投資銀行で情報セキュリティの専門家として働く一方、ロンドン大学キングス・カレッジに研究生として在籍中であり、情報セキュリティに関する論文を多数発表している。原著のタイトルにもある通り、書は「脆弱なシステム」であるコンピュータのセキュリティをめぐる歴史を振り返るとともに、それを通じて「なぜ情報セキュリティは失敗の連続なのか」を明らかにしている。 書でも繰り返し指摘されているように、いまや情報セキ

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  • ジューディア・パール『因果推論の科学』を読む:統計を、AIを、そして科学について考える人は、ぜひ一読を! - HONZ

    ジューディア・パール『因果推論の科学』を読む:統計を、AIを、そして科学について考える人は、ぜひ一読を! 英語圏ではすでにして評価の高い、ジューディア・パールの大著『因果推論の科学--「なぜ?」の問いにどう答えるか』(原題はThe Book of Why)が、ついに翻訳刊行された。実は私は原書を読みかけて挫折していたのだが、このたび邦訳が出たのを機に、ついに読み通すことができた。そして、書を読み通したことで得たものは大きい。 ジューディア・パールは、人工知能への確率論的アプローチの導入と、ベイジアンネットワークの開発により世界的名声を確立し、「人工知能分野の巨人」とも呼ばれる人物である。ベイジアンネットワークなんて初めて聞くという人もいるかもしれない。人口知能研究の歴史という観点からざっくりその位置づけを説明すると、かつてAI研究は、「エキスパートシステム」と呼ばれるアプローチを採ってい

    ジューディア・パール『因果推論の科学』を読む:統計を、AIを、そして科学について考える人は、ぜひ一読を! - HONZ
  • 『ストーリーが世界を滅ぼす』我々が物語を所有しているのか? 物語が我々を所有しているのか? - HONZ

    世界はどんどん良くなっている。世界の人口のうち、極度の貧困状態にある人の割合は、過去20年で半分になった。そして自然災害で毎年亡くなる人の数は、過去100年で半分以下にもなった。 一方で、世界はどんどん悪くなっている。政治の分極化、止まらない環境破壊、野放しのデマゴーグ、混迷きわめるウクライナ情勢、終わりの見えないコロナ禍。 一体どちらが、当の姿なのだろうか? 答えはストーリーを操る、語り手次第である。私たちが一生の間にたえまなく行うコミュニケーションには、何よりも重要な主目的がある。それが他人の心に影響を与え、なびかせるということだ。そのための唯一にして最強の武器が物語なのである。 むろん物語を通じて、人々を幸せな方向になびかせることだって可能ではある。しかし人間にはネガティブ・バイアスというものがあるからタチが悪い。悲しいかな私たちは、ネガティブな出来事の方に関心を寄せやすく、記憶に

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  • 「他人の価値」から自分を取り戻す『当事者は嘘をつく』 - HONZ

    すごいが出た。 いきなりであるが、このの最後の文を紹介したい。 でも、その窮屈な型を破って、新しい型を生み出すサバイバーがきっと出てくる。私の語りの型は、誰かの生き延びるための道具となり、破壊され、新しい型の創造の糧になる日を待っている。(200ページ) この締めくくりの文に、このの性格が表されている。性暴力のサバイバーである著者は、さまざまなを読み、勉強し、考えることで生き延びてきた。血まみれになりながら知識を身につけてきたと言えるだろう。そして、彼女だけの創造する力を得てきた。引用のとおり、このは著者の小松原さんが得た力を、また別の人に渡すために書かれたである。 私がの中で驚いた箇所がふたつある。ひとつは、読書のしかただ。文中に、ジャック・デリダの『言葉にのって』の「赦し」に関する部分を小松原さんが読んだときのエピソードが出てくる。小松原さんは、この部分を読んだとき、耐え

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  • 過激主義組織はどのように人を勧誘し、虜にするのか?──『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』 - HONZ

    過激主義組織はどのように人を勧誘し、虜にするのか?──『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』 この『ゴーイング・ダーク』は、イスラム聖戦主義者やキリスト教原理主義者、白人のナショナリストや極右の陰謀論者、過激なミソジニストたちの組織など、12の過激な主義主張をかかげる組織に著者が潜入したさまをつづるルポタージュである。 潜入が実施された期間はおおむね2017年から18年にかけての2年間で、その間に著者はオンライン活動への参画を中心としながら、そうした組織の裏側でどのような活動や勧誘が行われていて、彼らがどんな思想を持っているのかをつぶさに見ていくことになる。 著者が潜入するのは初心者にもハッキング講座を施してくれる、親ISISのハッキング組織から白人ナショナリストなど過激な思想を持つもののみが参加できる特殊なマッチングサイトまで様々だが、そこには共通する人間の傾向や勧誘の手口が

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  • 「ファイザーワクチン」誕生秘録は、疾走感あふれる奇跡のサクセスストーリーだ!『mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来』 - HONZ

    「ファイザーワクチン」誕生秘録は、疾走感あふれる奇跡のサクセスストーリーだ!『mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来』 バイオベンチャー・ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチン開発秘録だ。その疾走感が半端ではない。なにしろ、ワクチン開発に取り組むチームを組織した日からヒトに投与するまでわずか88日しか要さなかった。このことからだけでも、その猛烈なスピードが想像できるだろう。 え?ワクチンといえばファイザーとモデルナのmRNAワクチン、それにアストラゼネカとかで、ビオンテックなんて聞いたことない、という人が大多数かもしれない。ごもっともである。しかし、ファイザーのワクチンは、ファイザー社ではなく、ドイツのビオンテック社が開発したものなのだ。そののワクチンについては、ファイザーが資金提供をおこない、50/50の権利を有するという契約がなされている。だから、来なら、ファイザー・ビ

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