「河原の石ひとつにも宇宙の全過程が刻印されている」。レイテの戦地で戦友に聞いたこの言葉をきっかけに、戦後石の蒐集を始めた男の物語。戦争の記憶と石の記憶が交錯し、徐々に男は、世間に背を向けて石の世界にのめりこむようになる。男の意識が石に凝縮されるのと反比例するように、男を取り巻く世俗の影は薄まり、とうとう妻は狂い、二人の息子も死に至る。石の持つ、一種魔術的な力を描いていて、背中が一瞬ぞっとする魅惑的な石狂い小説。 石の愛し方で、ロジェ・カイヨワの右に出るものはいないのではないかと思う。この本に収められている石についての文章は、どこをとっても石に対する並々ならぬ愛情であふれている。でも、決して愛に溺れてはいず、石の硬さに負けぬほどの硬質な視線で石を眺め、石が経てきた時間に負けぬほどの密度の濃い思索を反映する。冷静に、冷静に、言葉を積み重ねていく仕草は、壮大な芸術に向けられたものであるようにも思