これが現実に起きていることだとは、にわかには信じられなかった。 原発事故によって多量に降り注いだ放射性物質。それに対して、放射性物質を取り除く「除染」よりも、放射能を怖れる気持ちをこそ取り除く「心の除染」をすべきである――そんなことを主張する市長がいるというのだ。 それは、福島県伊達市の仁志田昇司市長。 今年2月に出版された『「心の除染」という虚構 除染先進都市はなぜ除染をやめたのか』(黒川祥子/集英社インターナショナル)には、原発事故後のあまりにも理不尽な「嘘のような本当の話」があますところなく描かれている。 福島県伊達市は、全村避難となった飯舘村の北西、そして福島市と隣接する人口約6万2000人の市だ。福島第一原発からは約60キロ。そんな伊達市は、著者・黒川氏の生まれ故郷でもある。 著者が伊達市を取り上げたのは、自らの故郷であるという個人的理由からだけでなく、「原発事故のさまざまな問題