父と二人で実家に暮らす32歳のナツコは、社会の不平等にモヤモヤし、誰かの些細な一言に考えをめぐらせながら、淡々と漫画を描き続ける。その日常を描いたのが、第28回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した漫画『ツユクサナツコの一生』(新潮社)だ。 著者はイラストレーターの益田ミリさん。淡々と日々を送る登場人物たちの何気ないセリフにはっとさせられ、予期せぬ展開に心を揺さぶられる本作の魅力とは? 「どの本を読むより先に開き、どの映画よりも先に知ってほしい――そういう一冊」と推薦する作家・北村薫さんの書評を紹介する。 *** 金太郎飴を、いただきました。根岸の子規庵に行かれた方のおみやげです。 普通なら、金太郎さんがこちらを見ているはずの切り口から、男性の顔がのぞいています。そうでない飴にあるのは、不思議な模様に見えます。 「顔は正岡子規。もうひとつは、へちまですよ」 とのこと。 子規は三十代半ばで世を去りま