2018年2月1日、ドイツの名門テュービンゲン大学の敷地に、一台の軍用車が乗り入れた。左翼色の強い同校を軍人が訪ねることは実に稀である。車から降り立った2人の将校が向かったのは、理系学部でも政治学部でもなく、あろうことか文学部だった。 彼らを迎えたのは、同校比較文学教授ユルゲン・ヴェルトハイマー。この日、彼の研究チームとドイツ国防省の将校たちは、文学テクストを用いた国際危機予測のための共同研究、その名も「プロジェクト・カサンドラ」の成功を願い、固く握手を交わしたのだ。 ある新聞は、「文学が危機予測に役立つなんて馬鹿げている」と書き立てた。「どうして軍は無駄だとわかっていることに金をつぎ込むのか?」と。