巨匠と呼ばれて久しいのに、どこまでも柔らかい。英国の演出家ピーター・ブルック氏(88)は、うらやましい年の重ね方をしていた。去年から10カ国を回った最新作「ザ・スーツ」の日本公演を前に、思うところをパリで聞いた。 足どりは年相応ながら、手ぶりは豊か、英語や仏語の滑舌も悪くない。本人が日差しを気にし、取材時に座る位置が二転三転した。日本への長旅は見合わせるが、紛れもなく見せる側、現役の演劇人である。 「ザ・スーツ」の舞台は南アフリカ、アパルトヘイト下の黒人居住区だ。妻の浮気現場を押さえた夫は、逃げた男が残したスーツを以後「客人」としてもてなすよう命じる。お前の罪は忘れさせないと。