転がりながら、つかんだその細い木が手のひらからずるりと抜けていくのが見えた。絶望的な光景だった。その瞬間、自分は死ぬんだと分かったのだ。これから川まで一直線に投げ飛ばされ、激流にもまれながらインドまで流されるのだ。 前回レビューを書いた『冒険歌手』を読んでからというもの「冒険ってなんだろう」とモヤモヤし続けていた私は、その簡単には出そうにない答えを求めて本書を手にとった。著者は『冒険歌手』の峠恵子さんと共にニューギニアを探検した「ユースケ隊員」こと、角幡唯介氏である。 数多くの探検家たちが魅了され、挑み、跳ね返され、そして時に命を落とした伝説的秘境、ツアンポー峡谷。アジア有数の大河・ツアンポー川は、ヒマラヤ山脈東端で大きな山に挟まれて屈曲する。その峡谷には人跡未踏の地理的空白部があった。それが本書のタイトル、ファイブ・マイルズ・ギャップ――「空白の五マイル」である。 きっかけは本だった。大
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