40年前の中絶を証言したろうの70代女性によるメモ。子どもをつくる同世代や年上のろう夫婦は少なかったという ラジオが流れる小さな喫茶店に女性が現れた。他の客と席が離れていることが分かり、ほっとした表情を浮かべる。「私が話したとは誰にも言わないで」。絶対匿名が取材の条件。しわで分かるから、と手の撮影も断られた。 ■本当は産みたい。でも従うしかなかった 女性は70代。幼いころから耳が聞こえず、発語もできない。人生の多くは優生保護法(1948~96年)があった時代と重なる。「(当時は)子供を作るろうあ夫婦は少なかった」とペンを走らせた後、40年間胸に押し込めてきた思いを、手話で語り始めた。 小中高とろう学校で学び、卒業後に今の夫と出会った。夫もろう者。交際中、彼の母親から「早く早く」と促されて結婚した。夫は工場で働き、自身は和裁の内職や清掃の仕事で家計を支えた。 79年、つわりに気づいた。当時3