「きみに担当してもらう車は、東京都ナンバーの 55-3C4F から 57-7BA9。およそ一万台だ。よく把握しておきたまえ」 都庁に就職した初日、交通責任課の課長はただひとりの新人であるわたしのために、わざわざ「新人のための業務説明会」なるスライドを作って説明をしてくれた。東京都内を走る自動車四十万台のうち、一万台がわたしの責任担当車になるそうだ。 「これらに交通事故があった場合、きみに責任をとってもらう事になる」 「責任をとる、というのは何をすればいいのですか」 「仕事を辞めてもらう」 「辞める」 「うむ。責任課というのはそのための部署だからね」 と、課長は真剣な顔つきで言った。 東京の役所や大企業に「責任課」という部署があることは就活をはじめた頃から知っていたけれど、いくら自動化技術で人の仕事が減る一方だからって、こんな奇妙な「仕事」が実際にあるということはやはり釈然としないものがあっ