ドリトル先生の世界 [著]南條竹則 ドリトル先生の物語が子供の頃の幸福な読書体験になっている人は多いのではないだろうか。自然を愛し、動物の言葉を理解する先生は、太っちょで、いつも飄々(ひょうひょう)として、ちょっと脱力系の人。作者ロフティングは、物語の舞台を19世紀初頭の英国においた。子供の頃には気づかなかったが、この設定こそがドリトル先生の物語に独特の風合いと深みを与えていたのだ。 本書は、そんな歴史的・文化的・社会的諸事情をこと細かく解題するドリトル先生読本の決定版。まず住まいの様子から、先生の家系は、上流階級の一員ジェントリ(爵位を持たない地主階級)だとする。 私が一番好きなのは『ドリトル先生航海記』。ここにトミー・スタビンズという少年が登場する。彼は先生に弟子入りし、後には物語の語り手となる。彼が先生と出会うシーンは本当に美しい。先生は、貧しいスタビンズ家を訪問し、夕食を共にし、少