疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのさなかにこの町に引っ越してきたので、しばらくは飲み屋に行くこともできなかった。わたしは働き疲れて小さな居酒屋で小一時間飲んでささっと帰るような日が、けっこう好きなのだけれど。 今日は珍しく灯りがついていた。ドアをあけると、彼は自分のためにいくらかのつまみを盛っていて(あきらかに自分向けの、ラフな盛り方だった)、わたしの顔を見ると、お、と言った。入っていい、とわたしは尋ねた。いいよいいよと彼はこたえた。もうのれん仕舞っちゃったけどさ、残りもんでよければ。 一人で飲もうと思ったんだろうにお邪魔しちゃって悪いね。いやいや、一人より二人で飲んだほうがいいですよ、そりゃ。そうお、ふふ。なに、今日はこんな時間まで仕事してたの? そう、ずーっとオフィス、もういやになっちゃう、あ、これおいしいな、ねぎのぬたとホタルイカのやつ、酢味噌
![想像上のカウンター - 傘をひらいて、空を](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/06a15c64ba0ceec233d86d71001ebb29a9dcbf5d/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcdn.blog.st-hatena.com%2Fimages%2Ftheme%2Fog-image-1500.png)