一曲目で「あっ、いい」。二曲目で「何この人、すごい……」。三曲目で「自分好みのミュージシャンが出てきた!」と快哉を叫びたい気持ちになった。前作『お湯の中のナイフ』 を初めて聴いた時のことだ。あれから私はこの人の紡ぐメロディや言葉や曲の虜になった。 私がいわゆる「ひねくれポップ」の箱に仕分けしているミュージシャンは田中ヤコブ以外にも山ほどいるが、氏の曲はメロディだけでなく曲の構造までひねくれている。次いで歌詞を読んでみると、メインストリームになりきれないコミュニティの日陰者(それはつまり休み時間に机に伏せて寝たふりをしている類の人間のことである)の鬱屈した想いが陰に陽に顔を出しており、私にはそれがそのまま楽曲の屈折した構造にまで垂れているように思えたし、それがこのミュージシャンの面白味になっていると感じた(そしてその詞にも深く共感した)。一方で60〜70'sのロックやフォークを基調としながら