M君のこと 大学に職を得てから25年あまりになり、その間に多くの学生を社会に送り出したが、時に忘れられない印象を残す学生がいる。その一人が、M君だ。彼が研究室に入ってきたのは、20年以上は前のことだろうか。背が高く、少しボーっとした印象を人に与えるM君が、ある日、〝事件〟を起こした。 理系の大学の研究室なら、大体どこでも「雑誌会」というゼミの時間がある。自分の研究に関連する英語の論文を抄録して、研究室のメンバーに紹介して発表するというものだ。今はパワーポイントなどPCを使って発表するのが普通だが、M君がいた当時はB4の紙のレジメを配るスタイルが一般的だった。 M君はその日、雑誌会の抄録担当だったのだが、ゼミの教室に行くと彼のレジメだけない。どうしたのかな、と思っていたが、他の担当者の発表が終わり、彼の番になると、彼は普通に前に出て教壇に立った。レジメなしで発表を始めるのかと思いきや、なんと