工藤会の幹部からうどん職人へ うどん職人の中本隆(55)は、特製のうどんを手際よく茹で、湯切りをし、盛り付ける。あまりに無駄のない動きのため、彼の過去をまざまざと物語る傷跡には気づきにくい。欠けた左手の小指のことだ。 中本の過去とは、暴力団の工藤会に30年以上所属し、幹部にまで上りつめたこと。そのヤクザの世界に別れを告げた中本は今、工藤会が拠点を置く福岡県北九州市でうどん店を経営している。 工藤会はかつては強大な組織だったが、暴力団の取り締まりが厳格化されたことによって縮小している。中本と同じように足を洗った構成員も多い。 彼らは、忠誠心に基づく厳しい「掟」によって統制され、家族のような上下関係のあるヤクザの世界を離れて、生き方を変えようとしているのだ。 ただし、元ヤクザは全身に入れ墨をしていたり、けじめとして小指が切断されていたりしているため、社会で目につきやすい。 うどん職人としての腕