最初に戻って,麻疹の流行を非線形力学系の視点から眺める.ここに書いたようなことはいろいろな伝染病にあてはまる可能性があるが,(1)感染力が強く,(2)感染して症状の出ない人がほとんどおらず,(3)多くの人が比較的すみやかに回復し,(4)回復後は相当の期間にわたって強い免疫が保たれる,といった性質が,麻疹を特に興味深いものにしている. 麻疹のダイナミクス再び 最初の回では患者の数の変動をあらわす確率モデルの例を考えた.伝染病が「自滅」しては再生する様子を示すにはよいが,実際の麻疹のモデルと考えると,いろいろ問題がある. まず,ロンドンのような大きな都市では,麻疹は毎年流行するので,流行の周期は1年に固定されていることになる.大きい都市での変動は,最初の回で青い線で書いたグラフに相当するが,モデルでは流行の周期は都市の大きさ(あるいは新しく出生して入れ替わる数)によって連続的に変わるので,明ら