ブックマーク / huyukiitoichi.hatenadiary.jp (29)

  • 異種移植の歴史と未来を語る本──『異種移植――医療は種の境界を超えられるか』 - 基本読書

    異種移植――医療は種の境界を超えられるか 作者:山内一也みすず書房Amazon現代は臓器が損傷を受けたり病気で蝕まれた時、臓器移植という手段をとることができる。とはいえ、問題は多い。拒絶反応が起きないように考慮する必要があるし、そもそも臓器が欲しい人に行き渡るのに十分なほどの臓器が存在しない。日では心臓は約3年、肝臓は約3年、肺は2年半、腎臓に至っては15年もの平均待機期間がある。 そうした問題点を(部分的にしろ)解決する方策の一つとして見られているのが、異種移植だ。ヒヒやブタなど、ヒト以外の動物の体(異種)、その臓器を用いて、人間に臓器を移植する技術であり、これができれば臓器移植用のブタを特別に育てるなどして、臓器移植を必要とする患者のために、安定的に臓器を提供できる体制を整えることもできる。もちろん、これは一般的とはいいがたい技術であり、そうした単純なアイデアを実行するためには倫理的

    異種移植の歴史と未来を語る本──『異種移植――医療は種の境界を超えられるか』 - 基本読書
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    zu2 2022/11/02
  • 誰もが手話ができる島には、耳が聴こえないことがハンディキャップにならない共同体ができた──『みんなが手話で話した島』 - 基本読書

    みんなが手話で話した島 (ハヤカワ文庫NF) 作者:ノーラ エレン グロース早川書房Amazonこの『みんなが手話で話した島』は日では最初に1991年に築地書館から刊行された単行の、30年以上の年月を経ての文庫版である。テーマになっているのは、アメリカ・ボストンの南に位置するマーサズ・ヴィンヤード島の人々の生活についてだ。 この島では一時期、閉鎖的で外部と遺伝子が混ざりづらく、遺伝性の聴覚障害のある人が多く居住し、誰もが当たり前のように手話を使う期間が長くあった。その結果、聞こえない人も聞こえる人とまったく同じように過ごし、その差異が意識にのぼらないほどとけ合って生活する特殊な文化が生まれていた。書はその文化を数多くの証言から書き残すものだ。文化人類学者の著者はこの島の生まれであり、1980年代に当時のことを覚えている島の人たちに話を聞いて、ぎりぎり書を書き上げている。 というのも

    誰もが手話ができる島には、耳が聴こえないことがハンディキャップにならない共同体ができた──『みんなが手話で話した島』 - 基本読書
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    zu2 2022/10/21
  • ヒューゴー&ローカス賞受賞の、対話が可能なのかすらもわからぬ相手との決死の外交を描く宇宙・ファーストコンタクトSF──『平和という名の廃墟』 - 基本読書

    平和という名の廃墟 上 帝国という名の記憶 (ハヤカワ文庫SF) 作者:アーカディ マーティーン早川書房Amazonこの『平和という名の廃墟』は、前作『帝国という名の記憶』で長篇デビュー作ながらもヒューゴー賞を受賞したアーカディ・マーティンの第二作にして二部作の後篇となる。前作は書名に「帝国」と入っているように、宇宙をまたにかける銀河帝国と、その宮廷で繰り広げられる皇帝の跡継ぎ問題なども関わってくる陰謀劇を中心に描き出す、いわばスペース・ポリティカル・サスペンスとでもいう作品であった。 著者は大学でビザンツ帝国史の博士号を取得し、別の大学で都市計画の修士をとるなど専門的背景のある人物だが、まさにそうした専門性や知識を活かして、前作では宇宙帝国とその在り様を生き生きと、美しく描き出していた。宇宙帝国ならではの特殊な文化・概念の書き込み、帝国とそれが実質的に植民地支配した周辺諸国との微妙な力関

    ヒューゴー&ローカス賞受賞の、対話が可能なのかすらもわからぬ相手との決死の外交を描く宇宙・ファーストコンタクトSF──『平和という名の廃墟』 - 基本読書
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    zu2 2022/10/19
  • 脳内のニューロンを修復もすれば破壊もする、ミクログリア細胞について──『脳のなかの天使と刺客』 - 基本読書

    脳のなかの天使と刺客: 心の健康を支配する免疫細胞 作者:ドナ・ジャクソン・ナカザワ白揚社Amazon近年、『「うつ」は炎症で起きる』などうつ病をはじめとした精神疾患と身体的な炎症の関係性が(一般向けのでも)注目を集めるようになったが、書『脳のなかの天使と刺客』も、そうした流れに連なる最新のノンフィクションである。 長年、病気が人の体を襲っても脳だけは立入禁止区域であるとみなされてきた。体で炎症が起こっても脳には関係がないのだと。体の場合炎症して腫れ上がるが、脳の場合は膨らんでも行き場がないからその発想も直観的には正しいように思える。だが、2011年頃から、脳も体の炎症から影響を受けるのではないか? と神経・免疫科学者は考えるようになり、実際それが正しいことが次第に判明しつつある状況である。 脳内の白血球 体の炎症と脳の関係性について、鍵を握っているのが「ミクログリア」と呼ばれる細胞だ

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    zu2 2022/10/14
  • 科学の世界に革命をもたらしえる力──『因果推論の科学 「なぜ?」の問いにどう答えるか』 - 基本読書

    因果推論の科学 「なぜ?」の問いにどう答えるか 作者:ジューディア・パール,ダナ・マッケンジー文藝春秋Amazonこの『因果推論の科学』は、その名の通り因果推論について、その先駆者の著者が書いた一般向けのサイエンスである。とはいえ、大半の人の反応は「因果推論ってなんなんだ」であろう。僕も何もわからぬまま読み始めたが、著者がこれは「科学の世界の革命」であると自賛するだけのことはある概念であることはすぐにわかった。 その一方、相当に難しい、とっつきづらい概念でもあり、いかな一般向けの著作といえども書を読んで理解するハードルは他のサイエンスと比べても高いといえるだろう。数式も出てくるし、統計学の用語もぽこぽこ出てくるので、素人がスルスルと読み通せるではない。とはいえ根気強く読んでいけば理解できるように書かれているし(数式自体は別に読み飛ばしても問題はない)、理解すれば因果推論の科学がいか

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    zu2 2022/09/16
  • 世界から昆虫が減少しつつある現代の状況について──『サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春」』 - 基本読書

    サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春」 作者:デイヴ・グールソンNHK出版Amazonこの『サイレント・アース』は副題に入っているように、殺虫剤や農薬などの化学物質の危険性を訴えた「沈黙の春」の昆虫をテーマにした現代版とでもいうべき一冊だ。 著者によれば、いま世界から昆虫の数が急速に減少しつつあるという。温暖化など環境の変化もあるうえ、森林の伐採など問題は絶えないから、昆虫の数が減っていること自体に違和感はない。では、具体的に何が原因で昆虫は減っているのか? 気候変動の影響? 農薬や殺虫剤の影響がいまなお残っているのか? その全部が複合しているのか? そもそも、昆虫の数は数はあまりに多いので正確に把握されていないとよくいわれるが、数が減っているのは当なのか──など、昆虫の現在の苦境を中心軸において、無数の問いかけを書では扱っていくことになる。 昆虫がいなくなると何が問題なのか? 昆

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    zu2 2022/09/06
  • すべてが成長する時代は終わり、素晴らしい停滞の時代が始まる──『Slowdown 減速する素晴らしき世界』 - 基本読書

    Slowdown 減速する素晴らしき世界 作者:ダニー・ドーリング東洋経済新報社Amazonこの『Slowdown 減速する素晴らしき世界』は、世界人口の増加も、経済の発展も、平均寿命も、負債も、技術革新も、すべての「加速」が終わって減速、あるいは停滞に向かうことを各種データから示していく一冊だ。加速する世界がいいもので、停滞は悪いものだとする価値観があるが、書は副題に「素晴らしき世界」と入っているように、決して次にくる停滞の世界が「悪いものである」という立場をとらない。 たとえば世界の人口はこの先一度100億〜110億あたりで天井へと至り、その後急速に減少していく。個々の国々からしてみれば人口が減少することは生産年齢人口が減ってGDPも税収も減少し国内市場が減少しと良いことがないが、世界的にみればこれは朗報だ。人数が少なければ少ないほどスムーズな意思決定が可能になる。ゴミを出し、エネル

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    zu2 2022/08/23
  • 注意スキーマ理論を通して、意識を再考する──『意識はなぜ生まれたか――その起源から人工意識まで』 - 基本読書

    意識はなぜ生まれたか――その起源から人工意識まで 作者:マイケル・グラツィアーノ白揚社Amazonこの『意識はなぜ生まれたのか』は、ブリンストン大学神経科学・心理学享受のマイケル・グラツィアーノによる意識研究についての一冊である。原題は『Rethinking Consciousness』、意識再考とか意識についてもう一度考え直すといったタイトルで、注意と意識の関係、またその区別する方法について。どうやったら工学的に意識を再現できるか? をグローバル・ワークスペース理論などと共に解説していく。 230ページほどの短い文の中に、意識と神経科学をめぐる話題とこれから先、人工意識や人間のマインドアップロードが実現したときに未来の社会はどう変わるのか? という未来予想までが詰め込まれていて、満足度の高いである。意識の話は一般向けでも専門用語が乱立しハードルが上がりがちだが、書はたとえ話も豊富で

    注意スキーマ理論を通して、意識を再考する──『意識はなぜ生まれたか――その起源から人工意識まで』 - 基本読書
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    zu2 2022/04/25
  • 仕事が行き渡らない世界がやってきたら、我々はどうやって生きていけばいいのか?──『WORLD WITHOUT WORK――AI時代の新「大きな政府」論』 - 基本読書

    WORLD WITHOUT WORK――AI時代の新「大きな政府」論 作者:ダニエル・サスキンドみすず書房Amazon近年、AIなどのテクノロジーの進歩は、人間から仕事を奪う。いや歴史が証明しているようにテクノロジーの進歩は新しい仕事を作り出すから人は新しい仕事へと移るだけだ。その移行には数十年かかるから現代を生きる我々の救いにはならない! など、さまざまな「テクノロジーの進歩と仕事」についての主張が交わされてきた。 数十年に渡るそうした論争の末、近年のノンフィクションでは、「多かれ少なかれテクノロジーの進歩は人間の仕事を奪う」方向に傾いているように思う。たしかにこれまで多くの仕事は、自動車やトラクターが馬を(少なくとも移動の手段としては)不要としたように、テクノロジーの進歩によって消え、また新たな仕事を作り出してきた。だが、それはいうても新しいテクノロジーが結局人間の完全な代替にはならな

    仕事が行き渡らない世界がやってきたら、我々はどうやって生きていけばいいのか?──『WORLD WITHOUT WORK――AI時代の新「大きな政府」論』 - 基本読書
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    zu2 2022/03/16
  • 男だけを殺す感染症によって男性人口が激減した時、社会はどのような変化を遂げるのか?──『男たちを知らない女』 - 基本読書

    男たちを知らない女 (ハヤカワ文庫SF) 作者:クリスティーナ スウィーニー=ビアード早川書房Amazonこの『男たちを知らない女』は、クリスティーナ・スウィーニー=ビアードのデビュー作にして、もし世界に男だけを殺す感染症が広まって、社会の構成要員がほぼ女性だけになったら、その時何が起こるのかを描き出す感染症&ジェンダーSFである。 「男だけを殺す感染症」は、成人向けコミックスでよく見かける他、日SF大賞を受賞したよしながふみの『大奥』の存在もあって、邦ではそう珍しい存在ではない。そんな先行作(?)に対して、作(『男たちを知らない女』)の特徴といえるのは、舞台を2020年代の近未来に設定し、社会が徐々に崩壊していく過程や、ワクチンの開発に奔走する人々の姿をリアルに描き出している点と、人類学者、医者、政治家など様々な立場の人物の視点から、変化していく社会を描き出しているところにある。

    男だけを殺す感染症によって男性人口が激減した時、社会はどのような変化を遂げるのか?──『男たちを知らない女』 - 基本読書
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    zu2 2022/03/02
  • リバタリアンが集まる町を作ったら、そこは熊の巣窟になった──『リバタリアンが社会実験してみた町の話:自由至上主義者のユートピアは実現できたのか』 - 基本読書

    リバタリアンが社会実験してみた町の話:自由至上主義者のユートピアは実現できたのか 作者:マシュー・ホンゴルツ・ヘトリング原書房Amazon はじめに どのように人々は集まってきたのか? 自由な町にヤバいやつらが集まってくる。 リバタリアンらは町を良い方向に変えたのか? おわりに はじめに 他者の身体や私的財産を侵害しない限り、各人が望むすべての行動は自由であると主張する、リバタリアンと呼ばれる人たちがいる。すべてを自由にすべきと考える原理的な人から、条件的に制約を認める人まで無数の思想的内実があるわけだが、そうした思想を持つ人々にとっては多くの国家・地域は制約だらけにみえるだろう。 自分たちの思想を社会に反映させるためには、民主主義の場合にはリバタリアン的思想を持つ候補者に票を投じたり、自分自身が立候補して国の方針を地道に変えていかなければいけないわけだが、それは当然ながらなかなかに大変な

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    zu2 2022/02/28
  • mRNAワクチンを接種した人全員に読んでもらいたい、ワクチン開発の奮闘を描き出す一気読み必至のノンフィクション──『mRNAワクチンの衝撃 コロナ制圧と医療の未来』 - 基本読書

    mRNAワクチンの衝撃 コロナ制圧と医療の未来 作者:ジョー ミラー,エズレム テュレジ,ウール シャヒン早川書房Amazon政府によると、日の新型コロナウイルスワクチン接種回数は1億9800万回、2回の接種を完了した人は総人口の77%と数字が出ているが、書『mRNAワクチンの衝撃』はそうしたワクチンの中でもビオンテック・ファイザー社によるワクチンがどのように開発され、世界に行き渡ったのかを描き出す迫真のドキュメントだ。 まだワクチンが出回り始めて十分な期間があるわけでもなく、これほどの速度で刊行される(原書も刊行されたばかり)は中身が速度の犠牲になっていることも多いので読み始めはそこまで期待していたわけではなかったのだが、書はまるで何年も準備をしてきたかのように中身が詰まっている。面白すぎて一気読みしてしまった。 ビオンテックはまだ多くの人が新型コロナウイルスの危険性を認識し

    mRNAワクチンを接種した人全員に読んでもらいたい、ワクチン開発の奮闘を描き出す一気読み必至のノンフィクション──『mRNAワクチンの衝撃 コロナ制圧と医療の未来』 - 基本読書
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    zu2 2021/12/29
  • 抗生物質の使用により耐性を増していく超耐性菌にどう抵抗していけばいいのか?──『超耐性菌 現代医療が生んだ「死の変異」』 - 基本読書

    超耐性菌 現代医療が生んだ「死の変異」 作者:マット・マッカーシー光文社Amazon近年、体内の腸内細菌の存在が我々の健康に大きく関与していることなどが明らかになってきて、細菌を死滅させる抗生物質を無闇矢鱈に乱用するべきではないという潮流が生まれてきた。それは我々の腸内細菌保護のためだけではなく、使いすぎると細菌が耐性をつけてしまい、薬剤耐性菌となってしまうことも関係している。 抗生物質は何も人間に使われるだけではなく、農業・畜産業においても使われている。それも、病気にかかったから使うのではなく、家畜の成長を促したり、すし詰めの飼育場での病気が発生することを予防するために抗生物質をつかっていて、世界で投与されるうちの約4分の3がこうした畜産業での使用されているという指摘もある。 1960年代には存在しなかった耐性菌が、今では何種類も確認され、それに伴って死者もまた増えている。耐性菌による死

    抗生物質の使用により耐性を増していく超耐性菌にどう抵抗していけばいいのか?──『超耐性菌 現代医療が生んだ「死の変異」』 - 基本読書
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    zu2 2021/07/06
  • 我々が宇宙で暮らすためには何が必要なのか?──『スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法』 - 基本読書

    スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法 (ブルーバックス) 作者:向井千秋,東京理科大学スペース・コロニー研究センター講談社Amazon近年、イーロン・マスク率いるスペースXや、アマゾンのジェフ・ベゾスのブルー・オリジンなど、民間の宇宙関連企業が大きく伸びている。国家的事業として中国の宇宙開発も加速しているし、火星に人を送り込む計画も、月に恒常的な人類拠点を作り上げる計画も、今や現実。10年〜30年単位の未来で実現が目論まれている状況だ。 たとえば、米国は2024年までに再び人類を月面に立たせ、火星など深宇宙探査への拠点として月周回軌道に小型の宇宙ステーションを構築する「アルテミス計画」を動かし、2030年代に火星有人探査も目標としている。月旅行はもはや夢物語ではない。 そうなってくると、我々が宇宙で安定的に暮らすためには何が必要なのか、という問いかけがますます重要になってくる。国際宇宙ステ

    我々が宇宙で暮らすためには何が必要なのか?──『スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法』 - 基本読書
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    zu2 2021/06/16
  • 数学概念が人類に生まれつきそなわっていないことを示す、数と言語人類学──『数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた』 - 基本読書

    数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた 作者:ケイレブ・エヴェレット発売日: 2021/05/08メディア: 単行 はじめに 数の概念は、生まれつき備わっているものではない 数の概念がないなんてことがあるのか? 1〜3 おわりに はじめに 『ピダハン──「言語能」を超える文化と世界観』という、左右や数字の概念を持たない珍しい言語の持ち主であるアマゾンの少数民族について書かれたノンフィクションがある。この、少数民族の話ながらもそこからチョムスキーの言語能否定の話や、幸せとは、文化とは、宗教とは、といった話に繋がっていく普遍的な話を展開しており、そのユーモア溢れる筆致もあって世界的に話題になっていった。 今回取り上げたい『数の発明』は、その『ピダハン』の著者ダニエル・L・エヴェレットの息子、ケイレブ・エヴェレットによる著書である。親子揃って言語学者とは凄いが、ケイレブは父親であ

    数学概念が人類に生まれつきそなわっていないことを示す、数と言語人類学──『数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた』 - 基本読書
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    zu2 2021/05/12
  • 精神病院に偽患者を送り込みその脆弱性を指摘した有名な実験は、実は間違いだらけだった──『なりすまし——正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験』 - 基本読書

    なりすまし——正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-16) 作者:スザンナ・キャハラン発売日: 2021/04/21メディア: 単行(ソフトカバー)近年、かつて行われた有名な心理学系の実験が、再現実験の失敗やデータ不備の発見により、実は間違っていたという事実が次々明らかになっている。たとえば有名なものに、マシュマロ実験がある。この実験では、マシュマロを皿の上におき、「それは君にあげるけど、私が戻ってくる15分の間にべるのを我慢していられたらもう一つあげる」と指示する実験で、ここで自制し、より大きなリターンを得られた子供ほど、大人になっても優秀と判断される割合が大きかったことを示した。 1970年代に実施されたこのマシュマロ実験は話題になり、いろいろなノンフィクションで目にしていたから、当につい最近まで僕もこれは正しい実験だと思っていた

    精神病院に偽患者を送り込みその脆弱性を指摘した有名な実験は、実は間違いだらけだった──『なりすまし——正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験』 - 基本読書
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    zu2 2021/04/24
  • 寿命が短くなっていく国アメリカで何が起きているのか──『絶望死のアメリカ――資本主義がめざすべきもの』 - 基本読書

    絶望死のアメリカ――資主義がめざすべきもの 作者:アン・ケース,アンガス・ディートン発売日: 2021/01/18メディア: Kindleアメリカでは今、絶望死が増えている。絶望死とは、アルコールや薬物依存による死亡、自殺の死因をまとめたもので、45歳から54歳の白人男女による絶望死は、90年には10万人中30人だったのが、17年には10万人中92人まで増えた。自殺率も、アルコール性疾患による死亡率も、薬物の過剰摂取による死亡率も増加している。 20世紀から21世紀にかけて、糧事情も改善し医療の発展があったこともあって、死亡率は改善されてきた。アメリカでも、45〜54歳の白人が心臓病で死ぬリスクは、80年代までは年平均4%で落ちていた──が、90年代には2%に鈍化、00年代には1%にまで落ちて、10年代からは逆に上がり始めた。ここでは中年の白人に限定しているが、若年層の絶望死も増えて

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    zu2 2021/02/12
  • 二〇一〇年代最注目のSF作家による、未来の海上都市を舞台にした〈分断〉と〈結合〉の物語──『黒魚都市』 - 基本読書

    黒魚【クロウオ】都市 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者:ミラー,サム・J.発売日: 2020/11/19メディア: 単行この『黒魚都市』は、2010年代にその頭角を現してきた、新時代のアメリカSF作家であるサム・J・ミラーによる二作目の長篇小説である。 チャイナ・ミエヴィルの『都市と都市』『言語都市』、クリフォード・D・シマック『都市』、グレッグ・イーガンの『順列都市』、アーサー・C・クラーク『都市と星』──SF作品で題名に「都市」が入っているとそれだけでワクワクが止まらなくなってくる。それはやはり、SFがシンプルにストーリーを語るだけでなく、その世界観を魅せつけるものであり、SF作品で書名に「都市」を入れることは、この作品は「未来の都市、未来の世界をたっぷりと描写するぞ!」という宣言となっているからだろう。というわけでこの『黒魚都市』だが、期待にたがわぬ都市SFだった。 世界観な

    二〇一〇年代最注目のSF作家による、未来の海上都市を舞台にした〈分断〉と〈結合〉の物語──『黒魚都市』 - 基本読書
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    zu2 2020/11/23
  • 自由に自分の幸福度を決められる時、医者はそこに上限を設けるべきだろうか?──『闇の脳科学 「完全な人間」をつくる』 - 基本読書

    闇の脳科学 「完全な人間」をつくる (文春e-book) 作者:ローン・フランク,仲野 徹・解説発売日: 2020/10/14メディア: Kindle版闇の脳科学ってどゆこと? 闇の脳科学があるってことは光の脳科学もあるのか? とか「完全な人間」ってなんだ?? 中田敦彦か?? とかいろいろ思いながら開いて読み始めただけれどもいやはやこれがめちゃくちゃおもしろい!! 邦題だけじゃなんのこっちゃわからないと思うが(原題を訳すと『プレジャーショック──脳深部刺激療法の始まりと忘れ去られたその考案者』)、書は脳に直接電気刺激を与えることによって、うつ統合失調症、同性愛など様々な病気・症状を治療しようとし、数々の人体治療に手を出し、世間や学者らから批判をらって忘れ去られていったロバート・ガルブレイス・ヒースという科学者の人生とその研究成果。また、こうした脳に刺激を与えることで病気の症状を治療

    自由に自分の幸福度を決められる時、医者はそこに上限を設けるべきだろうか?──『闇の脳科学 「完全な人間」をつくる』 - 基本読書
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    zu2 2020/10/21
  • 人類の英知がこの一冊に詰まった文明速攻再始動マニュアル──『ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド』 - 基本読書

    ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド 作者:ライアン ノース発売日: 2020/09/17メディア: Kindle版この『ゼロから作る科学文明』は、もしもあなたがタイムトラベラーではるかな未来から過去の世界に飛んでしまい、さらに戻る手段がなくなったとしたらどうやって文明を再興するのか──について書かれた一冊である。 実はこれと同じ発想のが5年前に邦でも翻訳で刊行されている。それは『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』というで、最初書(ゼロから〜の方)の書名と内容をみたとき、あまりにも『この世界が〜』とかぶっていそうだったんで、「色んな意味で大丈夫なのかな?」とビクビクしながら読み始めたんだけど、きっちりこの世界が〜の著者ルイス・ダートネルからの推薦コメントも存在しているし、何よりの最初の前提の置き方がこの二冊では異なっているので、書かれている

    人類の英知がこの一冊に詰まった文明速攻再始動マニュアル──『ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド』 - 基本読書
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    zu2 2020/09/21