BPDの場合に限らず、「精神疾患と遺伝」というテーマは極めてデリケートなものである。 一般論としてなら、パーソナリティーに対して遺伝的要因が影響を与えていることに反対する者など誰もいないだろう。 だがこれが「パーソナリティー障碍の病因論」という文脈の中で論じられる場合、事情は異なってくる。 たとえばこれまでBPDの病因に関して作り上げられてきたさまざまな理論は、もっぱら環境因に焦点を合わせたものばかりだった。 しかし近年おこなわれた研究は、遺伝的要因が与える影響を軽視するようなBPDの病因論が、現在ではもはや妥当なものとは言えないことを明らかにしている(Torgersenほか、2000;Distel ほか、2008,2009)。 心理学的特性や精神障碍に対して遺伝的要因や環境要因が、それぞれどの程度の影響を与えているかを明らかにするために、こうした研究では行動遺伝学(behavioral