魔境に生まれるジャズの寓話 紋切り型の出だしで始めるなら、アルメニア出身のティグラン・ハマシアンは、「今、最も期待が集まる注目のピアニストのひとり」ということになる。これに、ここ数年のジャズ界において最も〈効く〉印籠として使用頻度が滅法高い『セロニアス・モンク・コンペティション』の1等賞を2006年に受賞、と付け加えておけば敏いジャズファンはそれだけで耳をそばだててくれるはずだが、ついでに言っておくと、この賞の価値は、2等賞にジェラルド・クレイトン、3等賞にアーロン・パークスがいたという事実を知るとより増すかもしれない。近年のジャズ界を騒がせる俊英を押しのけての1位。このときティグランは10代だった。5年前のことゆえ仕方ないといえばそうなのだが、ただ、それを差し引いても、受賞に関するティグランの態度は意外にも冷淡なものだった。 「業界やミュージシャンのサークル内での認知は確かに上がったけど
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