「本日、その夢が叶いました」 ざわ、ざわ、ざわ……。 稲盛ホールに微妙な空気が流れる。薄暗い場内を切り裂く白い風。バッタ博士は、あのモーリタニアの正装で壇上に立った。すぐには演壇に向かわずに、スクリーンの前で見栄を切る。博士は、小さな容器から粘性の白い何かを取りだし、ゆっくりと自分の眉毛に塗り込めていく。ああ、博士、ちょっと塗りすぎです。 「たった今、心身ともに白眉研究者となりました、前野ウルド浩太郎です。よろしくお願いいたします」 バッタ博士は、今日もやらかした。白眉研究者のひとりとなった緊張と萎縮? 一切ない。安定した収入を得ることからくる安堵と弛緩? それも一切ない。博士は力強い声で、ことばを区切りながらはっきりと話していく。スクリーンには博士がモーリタニアの地で撮影した、大量発生したバッタの撮りたてほやほやの動画が流れている。博士の登場時にくすくすと場内から漏れていた笑い声が消えて