山形、福島両県境の板谷峠(標高755メートル)のほぼ頂上に近いJR奥羽線の無人駅「峠駅」(山形県米沢市大沢)で、昔ながらの餅の立ち売りを続けて116年を迎える店がある。かつて蒸気機関車が燃料補給で止まる「スイッチバック式」の駅として有名だったが、自動車の普及などで今や1日の列車はわずか上下各6本だ。「峠の茶屋」5代目店主の小杉大典さん(40)は、伝統の味を伝えるために今日も駅に向かう。 「とうげの名物ー、ちからー、もちー」。12月上旬の午後1時20分、米沢行きの下り普通列車(2両編成)がホームに到着すると、小杉さんの低くよく通る声が構内に響く。駅は雪よけに覆われており、昼でも暗い。乗客はおらず、停車時間は30秒ほどだ。