(何やってんだろ、オレ) 何をやっているかといえば小説を読んでいるのだ。しかも歯を喰いしばって読んでいるのだ。なぜ歯を喰いしばっているかというと、普通なら放り出しているべき本を、無理やり読んでいるからである。なぜか。それは仕事だからだ。 たとえば「自分こと黒桐幹也こくとうみきやがここに就職してもう半年近くが経つ」という文章がある。自分こと黒桐幹也、だって? 説明的過ぎ。こんなことを本当に言うやつはベタベタの少女マンガの中にしかいねえ。僕は高校時代文芸部の部長というものをやっていたが、こんな文章を後輩が書いてきたら即座に「死んでしまえ」と原稿をつき返したであろう。 少し読むとまた出てくる。「僕こと黒桐幹也の一九歳の夏は」。勘弁してくれよまったく。しかし歯を喰いしばって先を読む。 「ライトノベルのルポを書いて欲しい」 編集者の依頼に「へえ、そんな小説があるの」と素朴な好奇心から応じた。