鍵屋さんは、登美彦氏に会いに来る編集者の人たちはぜったいに口にしないようなことを平気で言うのである。 もちろん、同僚だからである。 「万城目さんの小説はドラマになるのに、森見さんのはならないんですか?」 森見登美彦氏は奈良出身であるし、「鹿男あをによし」がたいへん観たい。 観たくて観たくてたまらない、という。 しかし、観たくてたまらないものをやすやすと観てしまう人間はいかがなものか。 そんな堪え性のない人間に偉業を成し遂げることができるだろうか。 したがって登美彦氏はテレビを観ないのである。 百歩譲っても、「あしたの、喜多善男」しか観ないのである。 登美彦氏が机に向かって頑張ってゲラを読んでいると、登美彦氏の母親からメールが来た。 「『鹿男あをによし』、観てるよ」 ※ちなみに、現在発売中の幻冬舎「パピルス」では、万城目氏の特集が組まれている。登美彦氏がしぶしぶ寄せた短文を読むことができる。