大学3年くらいだったと記憶しているので、今から30年前、80年代冒頭の話。 芸大の彫刻科は3年から素材によってコースが分かれており、私は金属を選択していた。そして、現代美術の底抜けの泥沼に足を踏み入れかけていた。 もちろんその時は泥沼などとは思わず、現代美術こそが新しい価値を創造するのだと信じていた。 当時、金属室の先輩たちの作品は、石や木を彫っている人たちの作品より「新しく」「刺激的」に見えたから、金属室は私にとって面白く居心地のいい場所だった。 学期の最後だったか先輩たちと飲みに行って、私と数人が助手の人の家に泊まった。朝、二日酔いの寝ぼけ眼で起きてくると、皆がテレビを見ていた。ヴァイオリン少女のドキュメンタリー。まだ子どもなのに凄いテクニックだ。お母さんがつきっきりで教えている。 「ステージママだな」 「子どもの時からあれじゃあ大変だよなぁ」 「きっとバイオリン以外何にもしてないんだ