第六十八講 國分功一郎 選 「スピノザに近づいてみる――「倫理」と「思考」のための60冊+α」 ●國分功一郎さんエッセイ ハイデッガーという大哲学者がこんなことを言っています――どんなに幅広く哲学を論じたとしても、〈問う〉ということによって私たちが感動させられていなければ、何も理解したことにはならないし、すべては誤解にとどまる(『形而上学の根本諸概念』)。 ハイデッガーは二〇世紀の哲学を決定づけた、博覧強記の哲学者です。彼の本を読むと、「彼以上に難しいことを考えるのは無理ではないか」と思われるほどです。しかし、そんなハイデッガーも感動しているのです。哲学者の本を読み、問い、書く、そんななかで彼も感動しているのです。 ** 今回、私は『スピノザの方法』(みすず書房)という本を出版することができました。その中で問うているのは次のようなことです。ものを考えるにあたりわれわれは暗闇のなかをひ