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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (3)

  • 合理と天使 - 傘をひらいて、空を

    入社二年目の社員に自作のマニュアルを渡したらひどく喜んで何度もお礼を言うので、私でなくって古賀さんに言ってくださいとこたえた。その人がこれ作ったんですかと訊くので、マニュアルを作ったんじゃないですけど、と私はこたえる。古賀さんは私がたとえば特定の業務に関するマニュアルを作って、必要なときにそれを誰かに手渡すみたいな、そういう習慣を作った。古賀さんと呼ぶのは人に言うときだけで、自分のなかでは、天使、と呼んでいる。古賀さんはひどく痩せて制服のような印象を与えるスーツを着ており、見たところ美しい部分はなく、今はおそらく五十に近いはずで、十年ほど前に部署を異動してから、姿をあまり見ていない。 入社まもないころ、アウトプットを渡すとしぶい顔をし、何度やり直して出しても了承してくれない上長があった。直すところを指示されて直すとそうでないところに修正が入る。何度かそれを繰りかえし、大量のため息を受け取り

    合理と天使 - 傘をひらいて、空を
  • 作文が終わらない - 傘をひらいて、空を

    七つの女の子と話をしていたら、作文が終わらなくて困っているという。彼女は小さい子にしては要領よくしゃべるんだけれども、なにしろ七歳は七歳なので、話がくどい。しかもしょっちゅう脱線する。最後まで聞いて推測するに、どうやら何を書いて何を省くかがわからないので作文が長くなっている、ということらしかった。 学校の授業の作文で七五三の話を書くことにして、けれども原稿用紙六枚書いてもまだ、当日の朝ごはんが終わらない。メニューとその匂い、湯気のようす、パンの焼き加減の好みに関する主張で六枚目が終わってしまった。今までのぶんを捨てて書き直すべきか、という意味のことを、彼女は言う。読ませて頂戴と言うと、ずいぶんとはずかしがってから、結局読ませてくれた。 八枚切りのパンを焦げるぎりぎりのところまで熱してからバターを塗り、しみこませてべる、ジャムはパンに塗るべきではない、ヨーグルトにいっぱい入れたほうがいい、

    作文が終わらない - 傘をひらいて、空を
  • たぶん夫 - 傘をひらいて、空を

    彼女が記念写真を見せてくれたので、この隣の人が結婚相手だよね、と訊いた。たぶん、と彼女はこたえた。たぶん? 彼女はいくぶんぼんやりした顔で話した。彼と知りあって数ヶ月しか経っていないこと、すぐに恋人になり、相手の家の事情で急いで結婚したこと。 彼女が途方にくれた顔をしているので、なにか困ったことでもあったの、私は訊いた。たとえば彼の家は代々かえるの神さまを祀っていて、毎日十匹のいきのいい蠅をつかまえて捧げなければならないとか。 私の冗談のできがよくなかったせいか、彼女はごくうっすらとしか笑わず、悪いことや変なことはない、こたえた。夫の親族はいい人たちだし、自宅には夫と二人で住んでいるので、生活上の摩擦みたいなものもない。 帰ってくるの、と彼女は話しはじめた。帰ってくるの、なんだかすてきな人が。私が残業した日には先に帰っていて、おかえりって言う。私が前の家から持ってきたソファの上で私が買った

    たぶん夫 - 傘をひらいて、空を
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