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2011年5月30日のブックマーク (2件)

  • 風流夢譚

    風流夢譚 深沢七郎 あの晩の夢判断をするには、私の持っている腕時計と私との妙な因果関係を分析しなければならないだろう。私の腕時計は腕に巻いていると時刻は正確にうごくが、腕からはずすと止ってしまうのだ。私は毎晩寝る時は腕からはずして枕許に置くので、針は止って、朝起きて腕につけると針はうごきだすのだ。だから、 「この腕時計は、俺が寝ると俺と一緒に寝てしまうよ」 と私は言って、なんとなく愛着を感じていたのだった。これは腕時計が故障しているので時計の役目をしないことになるのだが、それでも私は不便は感じなかった。私と同居しているミツヒトという甥は機械類が好きで、時計も高級なウエストミンスターの大型置時計を置いてあるからだった。 数ヵ月前のことだった。 「そんな役に立たない腕時計は」修繕した方がいいじゃァないか」 と弟にすすめられて、弟の知りあいの時計屋さんに持って行ったことがあった。

  • 政治少年死す

    政治少年死す (セブンティーン第二部) 大江健三郎 1 夏はまさにあらわれようとしていた、空に、遠くの森に、海に、セヴンティーンのおれの肉体の内部に、夏は乾いた鋪道の地面にむかってゆるめられる消火栓からの水のように盛んに湧こうとしていた‥‥ おれは雨あがりの朝、左翼たちの集団が包囲をといた国会議事堂前広場を、青年行動隊の仲間たちと訪れて缶ビールを飲んだ、勝利を祝うために。おれは勝利にわずかながら酔い、そしてもっと豊かな寂蓼感を頭のなかに、また胸のなか躰中の筋肉のなかに熱いむずがゆさのように育てた。左翼たちは石器時代の人間のように石をその武器とするために、現代の工夫が固めた鋪道の石を剥ぎとっていた、その剥ぎとられ掘りおこされた鋪道の上に、おれは踏みにじられた娘の死骸の幻影を見た。もっと多くの死骸がそこに横たわるべきだったのだ、左翼どもの暴動、市街戦、そして雪のふりしきるさなかまで、