このように、現代の日本でさえ未だにこうしたタイプのアトミズム信奉者がごろごろしているのだから、明治時代はもっと酷かった。倫理観という誤った論理的な枠組みにより、数多くの人間、特に女性や子どもが不当な抑圧を被っていた。 こうした社会背景を念頭におけば、楫子のとった行動やその理念が必ずしも悪かった訳ではない事が理解できる。繰り返しになるが、彼女の問題点は、そうした既存の倫理観、価値観の押しつけに対抗すべく持ち出してきたものが、キリスト教倫理観というやっぱりアトミックな価値観だった、という部分なのである。先ほどの例に置き換えるのであれば、運という概念を否定するために、確率論を持ち出したようなものだ(どちらもアトミズムに根拠をおいているので、否定概念にはなり得ない)。 東京基督教婦人矯風会が創立したのは一八八六年。きっかけは万国婦人禁酒会から派遣された、レヴィット女史が日本を訪れたことだった。各地
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