『出版禁止 死刑囚の歌』という小説を上梓した。私の4年ぶりの長編小説である。一人の死刑囚をテーマにしたルポルタージュ風のフィクションだ。この小説を書く時に、実際の死刑囚について、いろいろと取材した。今回は、『出版禁止 死刑囚の歌』を書く時にモチーフとした死刑囚について語ってみようと思う。 獄中の歌人 死刑を宣告された囚人が短歌と出会い、歌人になった例は少なくない。獄中歌人として有名なのは島秋人(しま・あきと、本名、中村覚〈さとる〉・享年33)であろう。テレビドラマ『3年B組金八先生』(第5シリーズ10話)でも紹介されている。 島は1959年に島根県で殺人を犯し、死刑判決が下された。以来、刑が執行されまでの7年間、彼は獄中で短歌を詠み続けた。島の短歌は高く評価され、1963年には毎日歌壇賞を受賞している。 彼が短歌と出会ったのは、拘置所の中で恩師に手紙を書いたことがきっかけだった。島は子供の