舐められたもんですねと同僚が言い、やっぱりそうですよね、と私はこたえる。彼は私を見て目頭に薄い皺を寄せ、いただきますと手を合わせてから味噌汁に箸を添えてひとくち飲みこみ、焼いた鯖の焦げた皮のふくらみをぱりんと割って、槙野さんって怒らないの、と訊く。私は笑い、怒らない人間なんていませんと言う。私はけっこう怒りっぽいほうです。怒鳴ったりものを投げたりします。でも今はごはん食べてるし、そういうのはあとでいいです、銀鱈の煮つけのほうがだいじ。 私たちの会社では数人が通常業務とはべつに会社説明会にアサインされている。私もそのひとりだ。会社説明会には管理部の社員と別の部署の社員が二人組になって行く。管理部が会社全体の説明、その他の部署が具体的な業務内容の紹介を担当する。 会場に行くとはじめて組む管理部の社員が資料を並べていた。私はそれを手伝った。それから控えの席に座ろうとした。管理部が私を呼び止めた。
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