幼少期から家庭内で暴力に晒され続けていた、或る人。 成人しても家を出ることもなく、毒になる家族から逃れられていない。 虐待加害者に対する嫌悪感はあるものの、 「こうして欲しかったのに」という怒りはとうに消えてしまった。 彼らの要求には抵抗なく応じ、黙々と無感情に仕事を片付ける。 普段は社会人として真面目に働いているが、出世願望などは持たない。 周囲とコミュニケーションを図り、協調して仕事を進められる「いい人」。 業務上の任務を果し、効率化による業績の向上には尽力するが、 自分の私生活の充実や幸福な未来には無関心でいる。 「他人に迷惑をかけないように」貯蓄はしているが、 「自分の幸せな未来のために」は何も培っていない。 義務を果すことのみが自分の使命であり、 その苦役から解放される死の時のみを心待ちにしている。 淋しいという感情がない。 「いい人」ゆえに何人かの友人はあるが、 心から信頼でき
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