岩波文庫のタイトルでは、「作」と「著」が厳密に分けられている。これは読書人のあいだでも常識にはなってはいないことだろう。つまり、その作品が創作の場合には「作」であり、そうでない場合には「著」なのである。ちなみに、「芥川龍之介作、羅生門」、「芥川龍之介著、侏儒の言葉」というような具合である。 わたしはさまざまな音訳(音声訳)を聞いているうちに、これに気づいた。音訳の人たちはどんな作品をよむとときにも、冒頭で「○○(作者)著、○○(作品名)」とよみはじめる。この言い方は音訳というものの考え方を示すものである。つまり、音訳とは作品をよむのではなく、作品のかたちである書物をよむのである。だから、「○○著」ということになる。 それに対して、わたしは「○○(作者)作、○○(作品名)」ということにしている。作品の文字づらを声にするのではなく、作品の世界を表現するのだという意味である。ただし、エッセイや詩