1.名前と顔 なぜ、名前を忘れるのか。ついさっき別れたばかりの大切な人の名を。 なぜ、顔を忘れてしまうかもしれないと言うのか。夫の顔を、3か月会えないというだけで。 名前と顔は、人が人を、ほかならぬ「この人」と認識するための大きな手掛かりだ。 その大切な互いの名前を、何かどこかわからないところから働く大きな力にかき消されるかのように忘れてしまう。その瞬間の圧倒的な焦燥感と喪失感。「えええええ」という声しか出ないような、「焦る」などという言葉ではとても収まりきらないような、胸をかきむしられるような感覚。 「君の名は。」を何度見ても、私にとってこの感覚が薄れることはなく、なぜ、名前を忘れてしまうのか、という問いにとらわれてしまう。 自分にも夫にも、水原とリンさんという「選ばんかった道」があったことを知りながら、それでもその夫に選ばれたことを受け入れたはずのすずは、「三月は戻れん」と告げるその夫
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