凡庸ならざる肖像画家の肖像 何もないものをいったいどのように造形すればいいのだろう? 『騎士団長殺し』を読み始めて、最初に気になったのは、「これは一体いつの話なのか?」ということだった。その答えは小説の終わり近くになってようやく与えられるのだが、それがわかったとき、やはりそうか、そういうことかと、暫しの衝撃の後、すぐさま深く納得したのは私だけではあるまい。この小説が要するにどういう作品なのかを考えてみようとする時、最終的な、もっとも重要な、と言っていい問題は、疑いなくこのことだ。だがもちろん、そこに辿り着くまでには、それなりの道筋が必要となる。 『騎士団長殺し』を読み終えて、最初に思ったことは、これは村上春樹自身による「村上春樹論」だ、ということだった。彼の小説はしばしば謎に満ちているといわれる。解けない謎、解かれないままで終わる謎また謎に。それゆえに読者や評論家は謎を解こうと躍起になり、