黒沢清の待望のサイコスリラー『クリーピー 偽りの隣人』が凄まじい。尋常ならざる建物の画力。線路沿いにしがみつくようにして建っていた『トウキョウソナタ』(2008)の佐々木家のルックも強烈であったが、今作に登場する建物の気配、立地や空間の歪みは、この映画の主役と言っていい。思わずカメラが上昇し(ドローンによる撮影らしい)、その全容を俯瞰で捉えてしまうほどである。中でも最も不穏な質感を放つのが西野家だ。その前に広がる空き地は砂利が敷かれ、用途不明の給水塔がそびえ立っている。「安全第一」のフェンスで囲われ、そこには「立入禁止」のボードも貼られている。ご丁寧に「立ち入るべからず」と警告されているのにも関わらず、その不思議に歪んだ空間が放つ魅力に抗えない人間達が集まってくる。 黒沢清と言えば「揺れるカーテン」というほどに象徴的なその”風”は今作においてもあらゆる空間に吹いている。高倉夫妻の済む新居の