「君なら僕がやろうとしていることを十分理解してくれると思う」 三島由紀夫が自衛隊の市ヶ谷駐屯地において東部方面総監室を占拠し、憲法改正のために自衛隊の決起を呼びかけた後で覚悟の自決を遂げたのは、1970年11月25日のことだった。 何事にも几帳面だった三島由紀夫が事前に立てた計画は、小説や戯曲と同様に細部まで神経が行き届いていた。 およそ1年の歳月をかけて身辺をきれいに整理し、約束していた執筆や対談などの仕事を順に片付けていったのだ。 仕事や知人たちとの約束を一つずつ果たしながら、主だった友人たちにはさりげなく会うことによって、それとなく別れを告げている。 前日の夜は、友人でアメリカにおける翻訳者であるドナルド・キーンとH・Sストークスに宛てて、最後の所感と死後の指示書を手紙で送って、すべての段取りを整えた。 君なら僕がやろうとしていることを十分理解してくれると思う。 だから何も言わない。