本書は共同研究「人間と動物の関係の多様性とその文学的表象の比較研究」の成果である。「動物のまなざしのもとで」というタイトルは、人間が動物を一方的にまなざし、その生の価値すら意味づけてきた歴史を批判するとともに、動物たちを私たちに働きかける固有のアクターとみなすことで、この世界の複数性を開示しようという本書の執筆者の共通の関心を表わしている。 第I部では、村上克尚が、息子の早逝によって、動物たちが主体としてあるアイヌ的世界観へと導かれていく母親を描いた津島佑子「真昼へ」を、中井亜佐子が、ダニエル・デフォー『ロビンソン・クルーソー』の動物たちの多義的なまなざしをより強化したJ・M・クッツェー『フォー』を、呉世宗が、横滑りしていく隠喩としての鴉の視線を通じて主人公の主体を厳しく問う金石範「鴉の死」をそれぞれ分析する。 第II部では、カトリーヌ・パンゲが、1910年にトルコ政府が実行したシブリ島で