西日本のある地方都市で高齢の認知症患者を長年診ている精神科医(59)と、じっくり話をする機会があった。「認知症だけは勘弁してほしい。自分が家族に迷惑をかけるくらいなら死んだ方がましです」。深く考えず感想を口にした私に相手は同意し、こう言った。「私は医師ですが、安楽死を肯定しています」 ドキリとした。 彼の言う安楽死とは、延命治療を施さず患者が自然な死を迎える「尊厳死」ではない。医師が致死薬を患者に処方、投与する行為だ。尊厳死は広く受け入れられつつある一方、安楽死は日本では刑法の自殺ほう助や殺人の罪に問われる。精神科医とのやりとりはそれで終わったが、「安楽死」の3文字が胸に突き刺さって抜けなくなった。
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