南極に現れた巨大セイウチを射殺すべく、機上から「発射」と叫んだとき、あるいは国連の科学会議でジョージ・ファーネスの手がその肩に触れたとき、そして南極基地でオスマン・ユセフと抱擁を交わすとき、池部良は不思議な緊張感でわたしどもを魅了してきました。東宝特撮という池部にとってはまことに場違いで恥多きジャンルムービーに接して、可塑性に乏しい彼の演技の幅は決壊してしまわぬか、非常な不安に襲われるのです。 +++ 70年代の東映は、個性的な演者たちの分布する多様性豊かな環境を松方弘樹に提供しました。演技の矮小な幅に悩む松方は、逆にそこで多様性のスポンジたるを求められ、幅のない造形は時代に抗う恒常性だと好意的に解釈されたのです。『県警対組織暴力』の松方は、池玲子の上でドゥドゥと吠え立てる蛮声で、文太の苦悩を照射しました。『大阪電撃作戦』では満身創痍になっても成田三樹夫殺しを諦めないその粘着に、さしもの旭