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ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (20)

  • 健康ディストピア

    「健康は義務です、不健康は犯罪です」とアナウンスしながらドローンが行き交い、市民の健康係数を測定する。サーモグラフィで自動測定し、体温が高いと「風邪で休まないのは犯罪です」と勧告する。 健康係数が良いなら、健常者と判定され、執行対象にはならない。 しかし、規定値を下回ると、潜在的な不健康者として判定され、様々な制限が加えられる。事制限や運動が義務化され、タバコ等の嗜好品が限定されたり、保険金の割引オプションが利かなくなる。 さらに悪くなると、当人の健康状態が周囲への悪影響を及ぼす潜在感染犯と判断され、執行対象となる。マスクと手袋の着用が強制され、守らない場合は捕縛され、厚生施設でセラピーが施される…… ……という物語を思い浮かべたのは、御田寺圭さんの「コロナ後の世界」に忍び寄る「健康・健全ディストピア」を読んだから。コロナ禍の先、社会保障や医療リソースが制限され、健康であることがルール化

    健康ディストピア
    axkotomum
    axkotomum 2020/04/21
  • 検索する情報と、咀嚼する知識『人文学概論』

    世の中には、情報を得ると、知識を得るがあるが、これは後者だ。 情報と知識って、似たようなものに見えるが? 著者に言わせると、明確に区別する必要があるらしい。 情報は「判断を下したり起こしたりするために必要なもの」に過ぎないが、知識は「学問的な成果であって原理的に組織づけられた判断の体系」だという。情報は自分の外部にあるもので、体得され自己化されると知識になる、という構造だ。 を読むことを「インプットする」と言う人がいるが、喩えるなら、インプットするのが情報で、インストールするのが知識になるとも言える。あるいは、検索するときのキーワードは情報なら、何をキーにするかは知識になる。知識がないと、そもそも何を検索すればよいかすら分からないから。 情報としての「無知の知」 具体例で考えてみる。 たとえば、ソクラテスの「無知の知」について。 検索すればヒットする。ギリシャの哲学者ソクラテスは、知

    検索する情報と、咀嚼する知識『人文学概論』
  • 皮肉が分かる人・分からない人『アイロニーはなぜ伝わるのか?』

    せっかくの休日。ゆっくりしたいのに、「ほら、お出かけ日和だよ!」と友人にピクニックに連れ出される。みるみるうちに曇ってきて、どしゃ降りになる。びしょ濡れでになりながら友人に、「ほんと、お出かけ日和だね!」と叫ぶ。 晴天を期待してピクニックに行ったのに、どしゃ降りの大雨という現実に見舞われる。この期待と現実の違いを際立たせるために、「お出かけ日和」なんて逆を言う。これがアイロニーだ。 アイロニーとは何か この「期待」と「現実」を巧みに対比させ、あてこする構造から、アイロニーを解き明かしたのが『アイロニーはなぜ伝わるのか?』だ。 紹介される豊富な例を聞いていると、語られている言葉とは違う意味(意図)が飛び交っていることが分かる。「お出かけ日和」は分かりやすいが、小説やシナリオでは、かなり高度な「意図のやりとり」をしている。 これ、流行の機械学習では解析できないだろう。自然言語を形式的に解析して

    皮肉が分かる人・分からない人『アイロニーはなぜ伝わるのか?』
  • 戦争が子どもを怪物に変える『ペインティッド・バード』

    戦争が子どもに襲いかかり、子どもが怪物に変わっていく話。人間が、いかに残酷になれるかを、嫌というほど教えてくれる。 あまりのグロさに「劇薬小説」として認定した『ペインテッド・バード』が映画になった。 ©2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN ČESKÁ TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVÍZIA SLOVENSKA CERTICON GROUP INNOGY PUBRES RICHARD KAUCKÝ 小説は、エグいのに目が離せない、手が離れない、強い吸引力をもつ。TIMES誌の「英語で書かれた小説ベスト100」に選ばれている。 読む地獄 戦争は大衆を襲う狂気だ。身寄りを失った10歳の男の子が向かう疎開先の人々は皆、能に忠実だ。むきだしの情欲や嗜虐性が、目を逸

    戦争が子どもを怪物に変える『ペインティッド・バード』
  • フェイク歴史を言ったもの勝ちになるいま、『なぜ歴史を学ぶのか』

    フェイクニュースがまかり通り、「真実」が希釈化されるいま、歴史学は何ができるのか? この疑問に答える手がかりは、アメリカ歴史学者リン・ハントが著した書にある。 著者はまず、歴史政治化という問題について、具体的に説き起こす。 ホロコーストを否認するメリット たとえば、ホロコーストの否認だ。ナチス・ドイツが組織的に行った大量虐殺を「なかった」ことにする。それも、SNSや思想団体というレベルではなく、政府高官レベルでホロコーストを否認するところもあるという。 2005年12月、イランのアフマディネジャド大統領は、ホロコーストを「創り出された神話」だと発言した(※1)。ただし、核計画に対する国連の制裁を懸念し、イラン公式の報道機関は、この発言が最初からなかったかのように録画から取り除いている。 一つの歴史的事実について、なぜこのように発言するか。 それは、反イスラエル政策の一環として有効だと

    フェイク歴史を言ったもの勝ちになるいま、『なぜ歴史を学ぶのか』
  • 「知らない」を知る興奮と「知ってるはず」をもっと知る快楽が得られる『驚きの世界史』

    歴史の面白さは、つながる快感にある。 知っていることと知らないことがつながるとき、強く快を感じる。歴史研究から得られた知識と、映画やニュースで感動した経験が接続されるとき、「エウレカ!」と叫びたくなる。 『驚きの世界史』は、こうした経験と知識を繋げてくれる。 「漢族」は人工的な民族集団 いちばん驚いたのが、漢族という概念だ。 書によると、中国人の91%が漢族で、残りの9%が55の少数民族に分かれる。9割以上が同一の民族というのは、大きすぎやしないか? 北京語と広東語は英語とイタリア語ぐらい違うと言われるし、文化や風習もまるで別物なのに、漢族で括られる。 では、そもそも漢族とは何か? この解説が面白い。漢族とは、特定の文化や言語、風習、外貌とは関係がなく、長い歴史的過程を経て、様々な民族集団が政治的に統合された人工的な集団だという。そして、その核となるものが、「中華」という世界観になる

    「知らない」を知る興奮と「知ってるはず」をもっと知る快楽が得られる『驚きの世界史』
  • 物語に感動するとき、その力はどこから来たのか?『物語の力』

    物語に魅了されるということは、どういうことか。「感動した」「心が震えた」と手垢にまみれた言葉があるが、その心を震わせる力はどこから来たのか? これが書のテーマになる。 「心を震わせる力=物語の訴求力」として、どのようなときに訴求力が発生するかについて、物語論の研究成果を解説する。書では詳細に分けているが、ざっくり以下の場合になる。 回復と獲得の物語:自分が直面する問題に対する解決や、到達したいと願うゴールへの筋道が描かれているとき 疎遠と帰属の物語:自分とは異なる価値観が提示され、自分の価値観が揺さぶられるとき 物語の役割 小説映画における物語は、現代では消費されるものという意味合いが強いが、昔からの神話や民話の役割を担う側面もある。それは、物語を通じた、価値観や規範の伝達だ。 物語では、何か問題を解決したり、何かのゴールへ向かって進む。その背景にあるものは、「これは良くない状況であ

    物語に感動するとき、その力はどこから来たのか?『物語の力』
  • この本がスゴい!2019

    人生は短く、読むは多い。 毎年この時期、自分のリストを振り返るのだが、読みたいが尽きることはない。読むほどに、知るほどに、知識と理解と表現の不足を痛感する。 それでも読むし、ここに書く。読むことで豊かになり、書くことで確かになるというのは当で、読んでいるときに何を知りどう考えていたかは、書くことでハッキリする。 つまり、自分で分かるために書いているのだ。フランシス・ベーコンは、話すことで機敏になるとも言ったが、わたしの場合、話すことで世界が変わった。[スゴオフ]や読書会、[冬木さんとのSF対談]や、読書猿さんとの知をめぐる対談[1][2][3]で、世界の見え方が変わった。 読書会や対談は今後もしていくが、そこで紹介されたや、2019年に出会ったの中から、わたしにとってのベストを選んだ。これが、あなたにとってのスゴとなれば嬉しい。そして、このリストを目にしたあなたが、「それがス

    この本がスゴい!2019
  • おっぱいは誰のものか?『乳房論』

    問:おっぱいは誰のものか? 答:それを持つ人のもの 2行で終わるはずなのだが、『乳房論』を読むと、こんな単純なものではないようだ。この答えに至るまでに様々な紆余曲折があり、今でも続いていることが分かる。 書は、人類史を振り返り、西洋を中心とした乳房をめぐる欲望の歴史をたどっている。乳房に対する概念は一様ではなく、それを求める人や時代や文化によって尊ばれ・蔑まれ・弄ばれてきたという。 著者はマリリン・ヤーロム、スタンフォード大学のジェンダー研究所の上級研究員である。 彼女は、乳房に対する視線、すなわち乳房がどのように見せられ、見られてきたかという観点から振り返る。絵画や彫刻、映画やポスターに現れる、ビジュアルとしての乳房だけでなく、詩歌や論文、プロパガンダに現れるレトリックとしての乳房にも着目する。さらに、乳房がその時代や文化圏でどんな役割を果たしたかという機能面にまで掘り下げている。

    おっぱいは誰のものか?『乳房論』
  • おかしな議論にごまかされないための『論証のルールブック』

    『論証のルールブック』は、簡潔で説得力のある文章を書くためのルールが、50にまとめられている。1つのルールに1つの例文、1つの解説という構成で、このそのものが簡潔さを目指している。 ごく基的な常識レベルのものから、見落としがちな盲点まで、まんべんなく網羅されているのがいい。いくつか紹介する。 主張には根拠が必要だ 数字は他のエビデンスと同じような検証が必要だ 長文の論証や、口頭で伝える際、サインポストを活用する 論点先取の見抜き方 「主張には根拠が必要だ」なんて、当たり前すぎて、なにを今さらと感じるかもしれない。確かにその通りだろう。だが、実際に、事実のフリをした意見や、根拠レスの主張に出会ったとき、即座に見抜けるだろうか。 たとえば、この主張なんてどうだろう。 聖書に神は存在すると書かれているから、神は存在する 聖書は神が書かれたのだから、正しい これは、結論が前提に含まれた有名な例

    おかしな議論にごまかされないための『論証のルールブック』
  • ナチスのデザイン『独裁者のデザイン』

    アラームが鳴ったものは、後になって、ニュースを装ったプロパガンダだったり、意見誘導のために歪められた情報であることが判明することが多い。100%ではないものの、おおむね信頼できる。 アラームが鳴るものと、そうでないもの。この違いは何だろう? うまく言語化できなかったが、『独裁者のデザイン』にあった。 書は、ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、毛沢東といった独裁者に焦点を当て、プロパガンダを駆使してどのように大衆を躍らせ、抑圧していったかを、デザインの観点から見直したものだ。 独裁者のイメージ戦略 デザインそのものには、右や左といった政治色や、善や悪などの道徳的な属性は存在しない。デザインとは、あくまで図案であり設計であり道具といったニュートラルな存在である。 しかし、デザインを利用する側の姿勢によっては、「謀る」という意味も発生するという。デザインは、人の心を一定の方向に動かし、奮い立た

    ナチスのデザイン『独裁者のデザイン』
  • ミスが全くない仕事を目標にすると、ミスが報告されなくなる『測りすぎ』

    たとえば天下りマネージャーがやってきて、今度のプロジェクトでバグを撲滅すると言い出す。 そのため、バグを出したプログラマやベンダーはペナルティを課すと宣言する。そして、バグ管理簿を毎週チェックし始める。 すると、期待通りバグは出てこなくなる。代わりに「インシデント管理簿」が作成され、そこで不具合の解析や改修調整をするようになる。「バグ管理簿」に記載されるのは、ドキュメントの誤字脱字など無害なものになる。天下りの馬鹿マネージャーに出て行ってもらうまで。 天下りマネージャーが馬鹿なのは、なぜバグを管理するかを理解していないからだ。 なぜバグを管理するかというと、テストが想定通り進んでいて、品質を担保されているか測るためだ。沢山テストされてるならバグは出やすいし、熟知しているプログラマならバグは出にくい(反対に、テスト項目は消化しているのに、バグが出ないと、テストの品質を疑ってみる)。バグの出具

    ミスが全くない仕事を目標にすると、ミスが報告されなくなる『測りすぎ』
  • 「動作」に特化した創作者のためのシソーラス『動作表現類語辞典』

    文章を書いていて、似たような表現をくりかえすことがないだろうか。 わたしは、よくある。そんなとき役立つのは、シソーラス・類語辞典だ。関連するワードや概念を別の言葉で表現することで、ボキャブラリーを広げ、マンネリに陥らぬようにする。 よく使うのは名詞や形容詞の言い換えだが、所作や行動に特化した『動作表現類語辞典』が斬新なり。これ、小説やシナリオを書く人にとって、強力な一冊になるだろう。 見出しは全て「動詞」で、五十音順に並んでいる。 たとえば、「教える(teach)」だと……アドバイスする、補助する、承知させる、文明化する、コーチする、調子を整える、忠告する、開発する、監督する、規律に従わせる、改善する、叩き込む、強化する etc……とある。 かなりのバリエーションだが、「教える」は様々な行動になる。ありがちな「アドバイスする」から、状況により「叩き込む」こともありだ。えっちなシーンだと、「

    「動作」に特化した創作者のためのシソーラス『動作表現類語辞典』
  • 人類を平等にするのは戦争『暴力と不平等の人類史』

    貧富の差は拡大する一方。一向に格差の是正が進む気配はない。 日に限った話ではない。北米、南米、中国、東南アジア、アフリカ……世界中、至るところで格差は絶賛拡大中だ。格差の拡大は、人類社会の宿命なのだろうか? 古今東西の不平等の歴史を分析した、ウォルター・シャイデル『暴力と不平等の人類史』を読むと、これは事実ではないことが分かる。たしかに貧富の不平等はあるが、これを一掃する平等化が果たされる。人類の歴史は、不平等の歴史でもあるが、平等化の歴史でもあるのだ。 書の目的は、この平等化のメカニズムを解明するところにある。データと史料とエビデンスでもって緻密に徹底的に分析する。 不平等のメカニズム まず著者は、不平等は人間社会の基的特徴だという。人類が糧生産を始め、定住化と国家形成を行い、さらに世襲財産権を認めて以降、不平等が進むのは既定の事実だと述べる。なんとなくそうではなかろうかで済ませ

    人類を平等にするのは戦争『暴力と不平等の人類史』
  • 運が通れば道徳は引っ込む『不道徳的倫理学講義』

    たとえば、高速道路に「たまたま」飛び出した人をはねて死なせてしまったとする。ドライバーは「注意して運転していれば避けられたはず」として、過失の度合いが図られる。 あるいは、通勤中、「たまたま」通り魔に襲われたとする。「過失」を無理やり探すなら、その道を選んでしまったことになるのだろうか。 この「たまたま」が厄介だ。 それまでの善行・悪行に関係なく、「たまたま」悪い目に遭う。悪い結果になっていないのは、偶然に過ぎないのに、結果が「たまたま」悪ければ、悪い原因が遡及される。 理想の世界では、善人には報酬が、悪人には報復が与えられる。災厄に見舞われた人には埋め合わせとする幸福が与えられる。 だが、現実は違う。善悪と幸不幸が同期しない。現実は、むしろ運に左右される。そのため、善悪を語る場から、運を排除しようとする。 宗教や神話は、「神意」や「天命」と呼ばれる神の意志=運命を取り入れ、前世や来世の因

    運が通れば道徳は引っ込む『不道徳的倫理学講義』
  • ネタバレについて哲学者がガチバトルする「ネタバレのデザイン」

    ネタバレは悪という人は、作品から得られる楽しみが減ってしまうからだという。作品を堪能する前に、結末が分かったら、面白くないでしょ? 2018年に南極で起きた殺人未遂の動機は、読んでるのネタバレをされたからだという[参考]。 一方、ネタバレ許容派は、「作品の理解が進む」とか「ハラハラせず安心して楽しめる」という。「野外コンサートでいつ花火が上がるか」知らずにトイレに行っていたという具体的な例が出てくる。 このように、ネタバレをめぐる様々な主張は、各人の芸術観や価値観により変わってくることが分かる。 こうした背景を受け、日を代表する哲学者が、ネタバレについてロジックで殴りあう。リング外の観客も、のんびり見てられない。マイクを放られて、「言いたいことあるでしょ?」と煽られる。恐怖の前置き「素人質問で恐縮ですが」から始まる素人離れした知識に震える。 前回の議論は[「ネタバレの美学」が最高に面白

    ネタバレについて哲学者がガチバトルする「ネタバレのデザイン」
  • 『ウイルスの意味論』はスゴ本

    見えてるはずなのに見ていないことに気づくと、より世界が見えるようになる。目にウロコなどなく、先入観に邪魔されていただけなのだ。そして、先入観に気づくだけで、世界が一変する。なぜなら、そこに「ある」という確信をもって、見ようとするからだ。 「惑星系=太陽系」という先入観 たとえば、系外惑星。太陽系以外の惑星のこと。観測技術が向上したにも関わらず、近年までほとんど見つけることができなかった。しかし、1995年に「ホット・ジュピター」と呼ばれる系外惑星が見つかってから、ほとんど爆発的といってもいいほど大量に発見されている。 ここで重要なのは、ひとたび見つかると、ラッシュのように見つけられる点にある。なぜか? それは、それまで探す対象としていたモデルが、太陽系だったから。われわれのよく知るサンプル(=1)を基に望遠鏡を向け、似たようなサイズや軌道や周期を探しても、なかなか見つからない。 しかし、超

    『ウイルスの意味論』はスゴ本
  • この本がスゴい!2018: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    まとめ すごく長くなったので、まとめる。まず、今年のベスト。 このがスゴい!2018のラインナップ。 このがスゴい!2018の一覧は以下の通り。 ◆フィクション 『ランドスケープと夏の定理』高島雄哉(東京創元社) 『舞踏会へ向かう三人の農夫』リチャード・パワーズ(河出書房新社) 『寿司 虚空編』小林銅蟲(三才ブックス) 『直線』ディック・フランシス(ハヤカワ文庫) 『ブッチャーズ・クロッシング』ジョン・ウィリアムズ(作品社) 『槿』古井由吉(講談社文芸文庫) 『平家物語』古川日出男(河出書房新社) ◆ノンフィクション 『知の果てへの旅』マーカス デュ・ソートイ(新潮クレスト・ブックス) 『愛とか正義とか』平尾昌宏(萌書房) 『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』吉川浩満(河出書房新社) 『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』ふろむだ(ダイヤモンド社) 『文学

    この本がスゴい!2018: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
  • 兵站とは戦争のインフラである『補給戦』

    戦争を「補給」の観点から分析した名著。勝敗は兵站によって決定されることが分かる。 ナポレオン戦争からノルマンディ上陸作戦まで、軍隊を動かし、かつ軍隊に補給する実際的方法───兵站術を論じ、戦略に与えた影響を考察する。戦略は政治と同じく可能性の技術だといわれるが、国力や思想、情報、兵器あるいは戦術によって左右されるだけではなく、冷徹なる現実によって決定されると主張する。すなわち、軍需品や組織、管理、輸送、通信線についての諸現実によって決定されるというのだ。 進撃や包囲、戦闘や殲滅といった「戦う」局面に目を向けがちだったのが、書により「補う」ことの重要さを、これがなくては戦うことすらできない単純な事実を思い知らされる。兵站とは戦争のインフラであり、戦略ゲームの「補給車」のような「点」というよりも、補給ライン、戦争をする動脈のようなものだということが理解できる。 たとえば、16-17世紀の略奪

    兵站とは戦争のインフラである『補給戦』
  • 『土木と文明』はスゴ本

    土木から見た人類史。めちゃくちゃ面白い。 土木工学とその影響という切り口で世界史を概観する。テーマは、都市、道路、橋、堤防、上下水道、港湾、鉄道などに渡り、テーマごとに豊富な事例で紹介する。土木技術の発展なしには文明も発達せず、また文明の発展につれて土木技術も発達してきた。そうした土木工学と文明の関わりを歴史的に串刺しで見ることができる。 大きなものから小さなものまで、人が手がけてきた土木事業は、それこそ星の数ほどある。それをどうやって整理するか。書は、そのとき直面した問題(治水、防衛、流通、疫病対策等)と、利用できるリソース(人・技術・時間)、そして成し遂げられた結果(土木事業)という観点で整理しているのが素晴らしい。 面白いことに、問題と対策という視点で眺めると、時代や地域を超えた普遍性が現れてくる。異なる時代・地域の人々が、それぞれに知恵を絞り、そのときに手に入るリソースを駆使した

    『土木と文明』はスゴ本
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