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ブックマーク / honz.jp (35)

  • 『ステレオタイプの科学』 色眼鏡で見られると本当にできなくなってしまう - HONZ

    「女性は数字に弱い」「高齢者は記憶力がわるい」「日人はアフリカ系の人に比べて身体能力で劣っている」。わたしたちはしばしば過度の一般化を行い、特定のステレオタイプをとおして周囲の人を眺めてしまう。そして、そうしたステレオタイプがときとして深刻な偏見や差別を生み出してしまうことは、多くの人が知っているとおりである。 だが、ステレオタイプがもたらす悪影響はどうやらそれだけではないようだ。なんと、否定的なステレオタイプをとおして眺められると、眺められたその人は、学業やスポーツ、仕事などで実際にパフォーマンスが落ちてしまうというのだ。 書は、アメリカの著名な社会心理学者クロード・スティールによるものである。スティールを有名にした研究のひとつが、「ステレオタイプ脅威(stereotype threat)」に関するものである。そして、そのステレオタイプ脅威こそが、先に述べたパフォーマンスの低下を引き

    『ステレオタイプの科学』 色眼鏡で見られると本当にできなくなってしまう - HONZ
  • 『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』鎮痛薬が人々の命を奪う、恐るべき薬物汚染の実態 - HONZ

    2019年4月、プロゴルファーのタイガー・ウッズがマスターズ・トーナメントで5度目の優勝を飾った。この優勝は、オピオイド(鎮痛薬)依存を克服しての勝利だったため「奇跡の復活」と称賛された。長く腰痛に悩まされ、鎮痛薬が手放せなくなっていたウッズは、17年に「薬物影響下での自動車運転」の容疑で逮捕されている。逮捕時の虚(うつ)ろな目をした写真を覚えている人も多いだろう。 「たかが鎮痛薬」と侮ってはいけない。オピオイドは極めて依存性が高く、ミュージシャンのプリンスや俳優のフィリップ・シーモア・ホフマンなど、過剰摂取が原因で亡くなった著名人も多い。全米ですでに40万人が命を落とし、400万人もが依存症に苦しんでいるといわれる。しかもこの空前の薬物汚染は、医師の処方した薬をきっかけに引き起こされたのだ。 書は、オピオイド禍の震源となったバージニア州西部のアパラチア地方で何が起きていたのかを、地元紙

    『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』鎮痛薬が人々の命を奪う、恐るべき薬物汚染の実態 - HONZ
  • 『ふくしま原発作業員日誌』原発作業員が安心して働ける社会を目指して - HONZ

    今年も3月を迎えた。2011年3月11日から9年が経ち、毎年震災が出版され続けている。私も3月は震災ものを読むことを習慣としてきた。楽しみや興味位からではない。「何も知らなくてごめんなさい。何もできなくてごめんなさい」といつも申し訳なく手に取る。 9年経った今、世の中は変わったのだろうか。現場の第一線で働く人の命と健康を守り、敬意を払う世の中になっているのだろうか。そして、私は震災と正しく向き合えていけているのだろうか。 書は東京新聞で連載されている「ふくしま原発作業員日誌」(2011年8月〜2019年10月)に大幅に加筆を加え書籍化したものである。作業員の人柄や日常の様子が生き生きと伝わるように、「日誌」という形にこだわった。そして、「日誌」と交差するように、廃炉に向けた進捗状況や、政府や東電の発表、働く作業員の労働環境などの背景が詳細に描かれている。「作業員の横顔がわかるように」

    『ふくしま原発作業員日誌』原発作業員が安心して働ける社会を目指して - HONZ
  • 『世界の起源 人類を決定づけた地球の歴史』グローバル経済を左右する地球環境のベースを正しく理解する - HONZ

    地球上の自然環境がそこに住む人々の生き方を決定する、という考え方がある。「環境決定論」と呼ばれる思想で、四季が織りなす大自然に囲まれてきた日人には比較的身近な見方でもある。 書はこうした立場から、地球の誕生からさまざまな変遷を経て人間がどのように現在に至ったかを克明に論じる。副題に「人類を決定づけた地球の歴史」とあるように、地質学・地理学・地球物理学を駆使して人類の進化をもたらした原因を探る。 具体的には、地球内部の構造、プレート(岩板)の運動、海洋の大循環、気候変動、鉱産資源の形成など、最先端の地球科学を解説しながら独自の文明論が展開される。確かに、日のようにプレートがぶつかる境界で育まれた文明の多くは、地震や噴火の激甚災害と切り離せない運命を持っている。 著者は新進気鋭の宇宙生物学者で、科学を分かりやすく伝える稀有の文才を併せ持つ。前著『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた

    『世界の起源 人類を決定づけた地球の歴史』グローバル経済を左右する地球環境のベースを正しく理解する - HONZ
  • 年収が上がれば上がるほど幸せになれるのか?──『幸福の意外な正体 ~なぜ私たちは「幸せ」を求めるのか』 - HONZ

    年収が上がれば上がるほど幸せになれるのか?──『幸福の意外な正体 ~なぜ私たちは「幸せ」を求めるのか』 幸福とはほとんどの人にとっての人生の目標なのではないだろうか。「いや、自分は幸福なんかどうでもいいですね。不幸になる権利が欲しいんです」という『すばらしい新世界』的な人もいなくはないだろうが、少なくとも僕は幸福でありたいと思う。自分の幸福ももちろんだが、近くにいる手の届く人たちも幸福でいてくれたらそれ以上はいうことはない。 だが、そもそも幸福とは何なのだろうか。ほしかったものを手に入れた時、おいしいものをべた時、僕は幸福を感じるが、どれほどの幸せでもすぐに慣れてしまうのはなぜなのか。年収の高い人は低い人よりも幸せなのか。幸福感と生活の質はどの程度関係しているのか、我々は自分の幸せを維持するために、何をどうしたらいいのだろうか。書は、そうした数々の疑問について研究データを元に幸福の実態

    年収が上がれば上がるほど幸せになれるのか?──『幸福の意外な正体 ~なぜ私たちは「幸せ」を求めるのか』 - HONZ
  • 『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』人生がどうしようもないほど暗くむなしいときに悲観を楽しむ方法論 - HONZ

    『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』人生がどうしようもないほど暗くむなしいときに悲観を楽しむ方法論 告白しよう。評者はずっと、なるべく他人と関わりたくないと祈りながら生きてきた。楽しいことも悲しいことも何も経験したいと思わない。誰かと揉めたり争ったりするなどもってのほかだ。人生の糧になる? 知るか。全部ストレスだ。願いは一つ、社会的接点を一切放棄して、永遠に寝床で布団にくるまっていたい……。 こんな暗い感情を披瀝したところで会話が盛り上がるはずがなく、賛同が得られるわけでもなし、むしろメソメソうるさい奴だ、望みどおり早く消えればと思われておしまいだ。だから書を読んだとき、やっとこの始末に負えない思いを打ち明けられる、と晴れやかな気分になった。助かった。自分の抱えてきた屈はすべて思想家エミール・シオランが書いてくれていた。書は、彼の人生とそのペシミズム

    『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』人生がどうしようもないほど暗くむなしいときに悲観を楽しむ方法論 - HONZ
  • 『地形の思想史』岬、峠、島、麓、湾、台、半島、地形が生んだ多様な日本 - HONZ

    高畠通敏の『地方の王国』といえば、地方政治研究の重要古典である。高畠は政治学者でありながらジャーナリストのように地方に足を運び、戦後の保守政治を支えた日各地の保守王国の実態に迫るルポルタージュを書き上げた。 なぜ田中角栄は旧新潟3区で圧倒的な強さを誇ったのか。高畠はその要因の1つに「豪雪」を挙げる。日海から吹く湿気を含んだ季節風は、三国山脈を越える前に3~6メートルにも達する雪を落とし、人々を孤立した空間に閉じ込める。長年にわたる雪国の生活の中で培われた忍耐と恨みの感情、そして連帯意識が、有権者のエートス(生活感情)になっていると高畠は書いた。 日は多種多様な地形からなる国家である。山々には無数の峠があり、山から駆け下りる急流は河岸段丘や扇状地をつくる。入り組んだ海岸線は世界で6番目に長く、島の数は世界で3番目に多い。このようなバラエティーに富んだ地形は、その土地に暮らす人々の思想に

    『地形の思想史』岬、峠、島、麓、湾、台、半島、地形が生んだ多様な日本 - HONZ
  • 『反穀物の人類史──国家誕生のディープヒストリー』 農業の優越性という神話、国家の形成をめぐるパラドックス - HONZ

    『反穀物の人類史──国家誕生のディープヒストリー』 農業の優越性という神話、国家の形成をめぐるパラドックス いまからおよそ1万年前、人類は農業を発明した。農業が生まれると、人びとは必要な栄養を効率的に摂取できるようになり、移動性の狩猟採集生活から脱して、好適地に定住するようになった。そして、一部の集住地域では文明が興り、さらには、生産物の余剰を背景にして国家が形成された──。おそらくあなたもそんなストーリーを耳にし、学んだことがあるだろう。 しかし、かくも行き渡っているそのストーリーに対して、書は疑問符を突きつける。なるほど、初期の国家はいずれも農業を基盤とするものであった。だが、人類はなにも農業を手にしたから定住を始めたわけではない(後述)。また、メソポタミアで最初期の国家が誕生したのは、作物栽培と定住の開始から4000年以上も後のことである。それゆえ、「農業→定住→国家」と安直に結び

    『反穀物の人類史──国家誕生のディープヒストリー』 農業の優越性という神話、国家の形成をめぐるパラドックス - HONZ
  • 麻酔で意識が落ちた時、何が起こっているのか──『意識と感覚のない世界――実のところ、麻酔科医は何をしているのか』 - HONZ

    麻酔で意識が落ちた時、何が起こっているのか──『意識と感覚のない世界――実のところ、麻酔科医は何をしているのか』 歴史、特に最悪の医療の歴史などを読んでいると、あ〜現代に生まれてきてよかったなあと、身の回りに当たり前に存在する設備や技術に感謝することが多い。昔は治せなかった病気が今では治せるケースも多いし、瀉血やロボトミー手術など、痛みや苦しみを与えるだけで一切の効果のなかった治療も、科学的手法によって見分けることができるようになってきた。 だが、そうした幾つもの医療の進歩の中で最もありがたいもののひとつは、麻酔の存在ではないか。正直、麻酔のない世界には生まれたくない。切ったり潰したりするときに意識があるなんてゾッとする──現代の医療に麻酔は絶対絶対必須だ。そのわりに、患者に麻酔を施す麻酔科医の仕事は光が当たりづらい分野である。何しろ実際に手術や治療を担当することはめったにないから、麻

    麻酔で意識が落ちた時、何が起こっているのか──『意識と感覚のない世界――実のところ、麻酔科医は何をしているのか』 - HONZ
  • 『我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの 』生命を司るメカニズムの「多様性」 - HONZ

    生命の起源は現代科学の最重要テーマの一つである。地球上の生命は今から38億年ほど前に誕生し、幾多の進化を経て我々人類まで継続してきた。ところが、その発端がどうだったのかは長い間の謎で、世界中でいまだに論争が続く。 こうした根的な疑問に答えるため、生命を実際にラボ(実験室)で作ってしまおうという企画が始まった。たとえば、飛行機がなぜ飛ぶかを知るには、まず紙飛行機を作りそれを飛ばすことから始めようというアイデアだ。今では「合成生物学」という最先端の研究にまで発展した。 書は第一線で活躍する生命科学者たちを徹底的に取材し、その現状を分かりやすく噛み砕いた啓発書である。 最初の3章は「生命の起源」に関する研究の基を押さえ、何がポイントかを明らかにする。続く2章は、「生命の終わり」をつくる、「第二の生命」をつくる、という意欲的な内容で、生命科学がどこに向かっているのかを見通す。 その他にも、ク

    『我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの 』生命を司るメカニズムの「多様性」 - HONZ
  • 持続可能なコーヒー栽培を目指して──『世界からコーヒーがなくなるまえに』 - HONZ

    コーヒーを日常的に飲む国が増えたこともあって、世界のコーヒー需要は年々あがっている。 一方で、大量生産と安価な供給を目指し大規模に工業化されたコーヒーの栽培、育成が大地に与える悪影響。また、全世界的な気候変動が伴って㉚年後には今のようにコーヒーを楽しむことはできないという研究者もいる。『世界からコーヒーがなくなるまえに』は、そんなコーヒー終了のお知らせの最中にいる現代にあって、持続可能なコーヒー栽培がいかにして行われえるのか、その可能性を追求する農家への取材をメインに構成されたコーヒーノンフィクションである。 もし私たちが美味しいものを味わい続けたいのなら、コーヒーとの関係も変わるべきだ。どこから豆が来ているのか知るべきだし、栽培環境やサステナビリティも忘れてはならない。量より質、つまり大量にコーヒーを淹れて飲み残しを捨てるのではなく、少なく、大切に、美味しい豆を轢いて淹れるべきだ。 僕自

    持続可能なコーヒー栽培を目指して──『世界からコーヒーがなくなるまえに』 - HONZ
  • 『ミヤザキワールド 宮崎駿の闇と光』 - HONZ

    書は、海外における日アニメ研究の第一人者による「宮崎駿論」決定版とも言うべき一冊である(原書はMiyazakiworld: A Life in Art, Yale University Press, 2018)。通読してまず実感するのは、著者スーザン・ネイピアの「ミヤザキワールド」に対する並々ならぬ愛情の深さだ。自身も優れたストーリーテラーであるネイピアの語り口は優しく滑らかで、宮崎の人生や時代背景が創作過程にどのような影響を与えたのかを、難解な専門用語に頼ることなく紐解いていく。ネイピアは、宮崎の作品世界を読み解くために、監督に関する膨大な日語の(そして日に日にボリュームを増す英語の)文献や資料を渉猟しただけでなく、作品にインスピレーションを与えた自然や場所にも自ら足を運んで観察している。 現在、タフツ大学で修辞学教授を務めるネイピアは、これまで日文学とファンタジーやアニメに関す

    『ミヤザキワールド 宮崎駿の闇と光』 - HONZ
  • 『奴隷船の世界史』それは過去完了では語れない、近代そして現代世界の暗部 - HONZ

    西洋近代における奴隷制の全体像を把握できる一冊だ。奴隷貿易の誕生から奴隷制廃止運動まで網羅しているが、書の白眉は奴隷船にまつわる詳細なデータを提示することで、近代社会の実態を浮き彫りにしたところだろう。 奴隷船はその名のとおり、奴隷を運ぶ船であり、映画小説で過酷な環境が描かれているように「移動する監獄」であった。 毎日16時間以上、鎖につながれ身動きできずに板の上に寝かされ、2カ月以上も大西洋上を航海する。健康を損なうと「商品」価値が落ちるので、強制的に1日2回事を与えられ、毎日1時間は甲板上で踊らされた。 奴隷船は大きければ大きいほど輸送効率が高まりそうだが、平均は100トン台半ばだった。600トン超の船が使われていたこともあったが、時代が経つにつれ大型船は減り、18世紀後半には400トン以上は皆無になる。できるだけ多くの奴隷を短期間に集め、船上での奴隷の死亡率を下げるために航海日

    『奴隷船の世界史』それは過去完了では語れない、近代そして現代世界の暗部 - HONZ
  • 『お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』私にもあった女性差別の驚き - HONZ

    第161回の直木賞候補作は全員女性であった。賞創設84年の歴史で初のことだと話題になったが文学の世界で性差を論じることは陳腐なことだと私は感じていた。 『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』は一般向けフェミニズム評論だ。著者の北村紗衣の専門はシェイクスピアのフェミニスト批評。東京大学で学士、修士を、キングズ・カレッジ・ロンドンで博士号を取得している。 北村は年に百映画映画館で観て、百くらい舞台も劇場で観る。そのうえ260冊くらいも読むという。仕事の上とはいえこれだけのものを観たり聞いたり読んだりするのは楽しくなくては続けられない。その楽しむ方法が「批評」であると語る。 「面白かった」だけでなくそこから一歩踏み込むのが批評。それを読んだことで作品や作者に対し、もっと興味を持ってもらうのが批評の仕事。良いことだけでなく、悪いこともきちんと分析して観劇した人や読者に伝える使命がある。書で

    『お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』私にもあった女性差別の驚き - HONZ
  • 無名科学者の挑戦から読み解く『エネルギー400年史』 - HONZ

    『原子爆弾の誕生』でピュリッツァー賞を受賞したリチャード・ローズの最新作だ。薪が主要エネルギー源だった16世紀後半から、気候変動対策を気に留めながらエネルギーのベストミックスを追及する現在まで、という400年超にわたる人類のエネルギー変遷史を描く。 有名無名の人物の物語を大きなテーマへと昇華させていく著者の手法は書でも健在で、今回も科学者や技術者など個々人の物語を絡めながら、エネルギー変遷史という壮大かつ骨太の物語を紡いでいく。読了後には何か大きな獲物を手にした感覚にさせてくれる。 エネルギーの歴史はイノベーションの連続である。石炭を使った蒸気機関車、石油を使った電灯や内燃機関自動車、原子力発電、地下資源の開発技術、パイプライン溶接など、イノベーションがいかに人類のエネルギーの扱い方を変えてきたのかを、それらイノベーションに関わった技術者や発明家の個々の物語をベースに組み立てていく。

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  • 『史上最恐の人喰い虎――436人を殺害したベンガルトラと伝説のハンター』悲しき猛獣は、なぜ生まれたか?  - HONZ

    『史上最恐の人喰い虎――436人を殺害したベンガルトラと伝説のハンター』悲しき猛獣は、なぜ生まれたか? 動物が人間を襲った事例でよく知られているのは、大正4(1915)年に北海道三毛別で起きたヒグマ襲撃事件だろう。これは8人が犠牲になった悲劇として語り継がれるが、それとほぼ同じ頃、ネパールとインドの国境地帯で人々を恐怖に陥れていた動物がいた。それが、チャンパーワットの人喰い虎――436人を殺害したとされる雌のベンガルトラである。 書はそのベンガルトラの足跡を追い、ジム・コーベットという伝説のハンターとの対決を描いた記録である。また、トラが人喰いへと追いやられていった背景を丹念に検証した、社会派ノンフィクションの顔も併せもっている。 だが、436人という数は、にわかには信じ難い。なぜこれほどの犠牲者を生んだのかという疑問はひとまず置いて、まず、トラという動物について少し学んでおこう。 トラ

    『史上最恐の人喰い虎――436人を殺害したベンガルトラと伝説のハンター』悲しき猛獣は、なぜ生まれたか?  - HONZ
  • 『暴力と不平等の人類史: 戦争・革命・崩壊・疫病』平等は破壊の後にやってくる - HONZ

    ものすごいだ。まずはページ数。索引と原注だけで141ページ。文582ページ。重い。 次は帯。「核戦争なき平等化はありえるか?」という文章が美しい縦書きで書かれている。不意をつかれてギョッとする。横書きには第二次世界大戦、毛沢東の「大躍進」、欧州のペストという千万人単位が死亡した事件の結果として起こった平等化、生活向上、賃金上昇などの例を上げている。さらにギョッとする。 あまりに分厚いので、とりあえず序章と第4章「国家総力戦」を試し読みしてみた。第4章は明治維新以来の日の不平等の激化と戦争による解消だ。浅学な評者としては概ね正確だとしか評価することはできないが、これだけでヘタな新書一冊分の情報量がある。 もちろんトマ・ピケティの総括にも触れており、その検証も行っている。トマ・ピケティの総括とはすなわち 「かなりの部分まで、20世紀の不平等を緩和したのは、経済的、政治的な衝撃を伴う戦争

    『暴力と不平等の人類史: 戦争・革命・崩壊・疫病』平等は破壊の後にやってくる - HONZ
  • 『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』誘惑に勝てないのは意志が弱いせいじゃない - HONZ

    スティーブ・ジョブズは自分の子供たちにiPadを使わせていなかった――彼はその影響力をもって世界中に自社のテクノロジーを広める一方で、プライベートでは極端なほどテクノロジーを避ける生活をしていた。デジタルデバイスの危険性を知っていたから。彼だけでなく、IT業界の大物の多くが似たようなルールを守っている。まるで自分の商売道具でハイにならぬよう立ち回る薬物売人みたいではないか……。 そんなツッコミで幕を開ける書は、フェイスブックやツイッター、インスタグラム、ソーシャルゲームといったデジタルテクノロジーが持つ薬物のような依存性をわかりやすく噛み砕いて分析した一冊である。ネット依存を題材としたは他にもあるが、書が類書とちょっと違うのは、こうした依存症ビジネスを否定・糾弾するのではなく、人間心理への深い理解を促すことに重心が置かれている点だ。著者はニューヨーク大学の行動経済学や意思決定の心理学

    『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』誘惑に勝てないのは意志が弱いせいじゃない - HONZ
    axkotomum
    axkotomum 2019/09/07
    依存への道がウォータースライダーみたいになってたらそこから抜け出すのは困難だよね…
  • 『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』世界の裏社会から見えてくる、犯罪者の思考と人間の深い業 - HONZ

    TBS系テレビ番組「クレイジージャーニー」に出演しているジャーナリスト、丸山ゴンザレスの著書だ。番組をご覧になった方ならばご存じかもしれないが、著者はさまざまな国の裏社会を取材してきた人物だ。 書は著者が取材した殺し屋や売春婦、ドラッグディーラーやジャンキーなどといった裏社会に生きる人々が、何を考えて犯罪という道を選び、行動するのかを考察した1冊である。著者自身が言及しているように、「思想」といっても体系だったイデオロギーのようなものではなく、犯罪者の思考を読み解くことに重点が置かれている。 書は第1章から強烈だ。取材対象はジャマイカの首都にあるスラムに暮らす「現役の殺し屋」だ。現れたのは貧相な体格に暗く沈んだ目をした青年。取材を続けている最中に殺し屋の携帯電話が鳴る。相手はクライアント。なんと用件は殺しの依頼だ。しかも動機が「自分を振った女を殺してほしい」という、それだけだ。著者は衝

    『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』世界の裏社会から見えてくる、犯罪者の思考と人間の深い業 - HONZ
  • 『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』 不都合な真実から目を背ける人たち - HONZ

    具体的な数字やデータを示してもダメ。明晰な論理で説いてもムダ。そんなとき、あなたはきっとこう思ってしまうのではないか。「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」。 実際問題、日々の生活でそんな思いを抱いてしまう場面は少なくないだろう。失敗例がすでにいくつもあるのに、それでもまだ無理筋を通そうとする社内のプレゼンター。子育てのあり方をめぐって、何を言っても聞く耳を持ってくれないパートナーなど。また不思議なことに、たとえ高学歴の人であっても、「事実に説得されない」という点ではどうやらほかの人と変わらないようだ。 さて書は、冒頭の問いを切り口としながら、人が他人に対して及ぼす「影響力」について考えようとするものである。心理学と神経科学の知見を織り交ぜつつ、著者は早々に厳しい診断を下す。 多くの人が「こうすれば他人の考えや行動を変えることができる」と信じている方法が、実は間違っていた…。 数字や統

    『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』 不都合な真実から目を背ける人たち - HONZ