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ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (51)

  • 『神は数学者か』はスゴ本

    九九の9の段を眺めていて、ささやかな「発見」をしたことがある。一の位と十の位の数を足すと9になる。九九に限らず、9の倍数の各桁の数の合計は、必ず9になるのだ。 9,18,27,36,45,54,63,72,81,90,99,108,…… 気づいたときには驚いたが、何のことはない。 「9の倍数」とは、「9を加えた数」のこと。そして「9を加える」ことは、「10を加えて1を引く」、つまり「上の桁の数に1を加え、元の桁の数から1を引く」操作にほかならない。元の数が9から始まるから、「上の桁の数に1を加え、元の桁の数から1を引く」操作を繰り返しても各桁の合計は「9+1-1」になる。これは、9という数が、桁上がりする一つ手前の数という性質を持つから。2進数なら1、16進数ならF、n進数ならn-1に割り当てられた数が相当する。 一方、たまたま数え方が10進数だから、9の性質がそうなっているとも言える。な

    『神は数学者か』はスゴ本
  • いつ高齢者から運転免許を取り上げるか『高齢ドライバーの安全心理学』

    明らかに運転できていないドライバーがいる。一時不停止、信号無視、蛇行運転(ハンドルをちゃんと握れてない? わき見?)。運転席を見ると100%高齢者だ。こうした光景は毎週見かける。なぜ毎週か? わたしがサンデードライバーだからだ。 いっぽう、 高齢者の交通事故テレビや新聞をにぎわしている。認知症の高齢者が、歩行者をなぎ倒し、コンビニに突っ込むニュースはよくあるが、認知症に限らず、ほぼテンプレのように「アクセルとブレーキの踏み間違い」「高速道路を逆走」「何が起きたかよく覚えていない」というお決まりのパターンとなっている。 自動車の運転に必要なスキルとして、「認知」「判断」「操作」が挙げられる。加齢に伴い、こうした能力が低下することは事実だ。認知能力が低下することで判断が遅れ、操作が間に合わなくなる。このとき、車は1トンの凶器と化す。何歳でどの程度の能力低下があるかはバラつきがあり、一概に何歳

    いつ高齢者から運転免許を取り上げるか『高齢ドライバーの安全心理学』
  • 徹夜小説『ウォッチメイカー』

    「屈辱」というゲームがある。好きが集まって、未読のを次々を告白するゲームだ。 大事なのは、「みんなが読んでるのに、自分だけ読んでいない」作品だと、ポイントが高いところ。つまり、読んでて当然のを読んでないと告白する「屈辱」を味わうゲームなのだ。 この「屈辱」を、ミステリ好きの読書会でやったことがある。わたしが、「ジェフリー・ディーヴァーは一冊も読んでないんですよね」とつぶやいたところ、そこに居た全員(?)から、哀れむような目で見つめられた。そんな悲しい目で見なくても……と言ったら、「羨ましいんだよ!」と全員(!)からツッコミを受けた。 ジェフリー・ディーヴァーを読んでいないミステリ好きは、「ミステリ好き」と名乗る資格があるかどうかは別として、幸せものらしい。なぜなら、これから絶対に面白いにどっぷりとハマれることが保証されているから。 そこで議論が百出する。やれ『魔術師(イリュージョニ

    徹夜小説『ウォッチメイカー』
  • 猫町倶楽部の読書会『利己的な遺伝子』

    最大の読書会「町倶楽部」が楽しかった。 課題図書を読んできて、グループディスカッションで交流する。2006年に発足し、東京、名古屋、京都で月例会、5000人超の参加者、商業的なランキングと一線を画し、硬めのを俎上に、と人・人ととの出会いをプロデュースしてきた。好きなを持ち寄って、まったり熱く語り合う読書会「スゴオフ」とは偉い違う。 参考になるかなーと思いながら興味半分・視察半分で参加してきたんだが、これがまためっぽう面白い&タメになる。主催の方、運営の方、ボランティアの方、お疲れ様でした、大変勉強になりました。 さて、行ったところが、六木のシスコシステムズ。広~いトレーニングルームに100名超が集まって、1グループ8名ぐらいに割り振られる(美男美女ばかりで、うだつの上がらぬオッサンは私一人だったことを報告しておこう)。そして課題(ドーキンス『利己的な遺伝子』)について1

    猫町倶楽部の読書会『利己的な遺伝子』
  • 女の機嫌の直し方

    男が書いたら炎上必至、女の機嫌の直し方。 胸に手を当て思い当たるトコロ多々あり、ヒヤヒヤしながら読む。と口論になったとき、論点を紙に整理しはじめたら激怒されたことを思い出す。「知性に性差はあるのか?」を書いたとき、女性読者から一方的に批判されたことを思い出す。 書のエッセンスは2chコピペ「車のエンジンがかからないの…」であり、ゆうメンタルクリニック「男と女の会話は違う!」にある。先に"正解"を書いておこう→「正しいのは常に女性であり、男性から共感をもって寄り添うべき」。この"正解"の裏付けと、実践的な対話を含めて解説したのが、書になる。 冒頭はこう始まっている。 女の何が厄介って、些細なことで、いきなりキレることだよな。それと、すでに謝った過去の失態を、何度も蒸し返して、なじること。 著者は脳科学コメンテーター。なかなか面白い肩書で、「男性脳」「女性脳」という言葉を使いながら、主に

    女の機嫌の直し方
  • 科学の面白さ・楽しさを伝える100冊 「科学道100冊」

    科学の面白さ・素晴らしさを届ける企画として、「科学道100冊」が公開されている。これは、科学者の生き方や考え方を伝えるために、100冊のが選ばれている。 ミソは「いわゆる理系」に閉じないところ。もちろん分野ごとの啓蒙書もあるが、「世界の見え方の変遷」を鳥瞰する科学史、センス・オブ・ワンダーを喚起する小説漫画、知的好奇心を刺激する図鑑など、いろいろ揃えている。 例えば、ディックの電気羊やパワーズ『オルフェオ』が「科学の」として並んでいる。これ、選者のメッセージが込められているんだろう誰だろうと見たら、編集工学研究所だった。松岡正剛さんの名前を前面にしてないのは、硬すぎず深すぎずが意図されているのだろう。 この100冊からいくつか選んでみた。さいきん微生物にハマっているわたしとしては、そっち系を入れて欲しかったが、ないものねだりかも。 生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問について

    科学の面白さ・楽しさを伝える100冊 「科学道100冊」
  • この本がスゴい!2016

    人生は短く、積読山は高い。 せめては「死ぬまでに読みたいリスト」を消化しようとするのだが、無駄なあがき。割り込み割り込みで順番がおかしくなる。読了した一冊に引きずられ、リストは何度も書き直される。 重要なのは、「あとで読む」は読まないこと。「あとで読む」つもりでリツイート・ブックマークしても読まないように、あとで読もうと思って読んだ試しはない。だから、チャンスは読もうと思ったそのときしかない。実際に手にとって、一頁でも目次でもいいから喰らいつく。勢いに任せて読みきることもあれば、質量と体力により泣く泣く中断するもある。かくして積読山は標高を増す。 ここでは、2016年に読んだうち、「これは!」というものを選んだ。ネットを通じて知り合った読書仲間がお薦めするが多く、それに応じてわたしのアンテナが変化するのが楽しい。わたし一人では、数学経済学歴史学、進化医学や認知科学の良を探し出せな

    この本がスゴい!2016
  • 最も信頼できるのはブッカー賞『世界の8大文学賞』

    ノーベル文学賞や芥川賞、ブッカー賞などの受賞作品から「これは!」というものを選び、作家や翻訳家、書評家が全部読んだ上で実現した鼎談。おかげで積読山がさらに高くなる一方、わたしの偏見が解消された。 というのも、常々思っていた「芥川賞って新人賞なのに勘違いしている人いる?」が喝破されてたから。日最高の文学賞みたいに考えてる粗忽者は少なからずいる(ただし、これ読んでる人は該当しないはず)。だが、芸術性の高い作品に与えられる賞だと考えていると、書で足元をすくわれる。最近の傾向は変わってきているようだ。 普通なら、芥川賞は芸術性、直木賞はエンタメだと考えがちだが、東山彰良『流』をぶつけてくる。これは日語で書かれてはいるけれど、日になじみのない世界が描かれている。中国語を使ってポリフォニックな雰囲気を演出しつつ、言語的越境のような冒険が試みられているらしい。そういうものが平気な顔をして受賞して

    最も信頼できるのはブッカー賞『世界の8大文学賞』
    benzina
    benzina 2016/11/10
  • 私の境界は外に開いている『具体の知能』

    プレステVRで「バイオハザード7」を初めてプレイしたとき、面白いことが起きた。「寒く」なったのだ。 暑い盛りでクーラーきいてなくて汗かいているのに、「寒い」のだ。もちろん、めちゃくちゃ怖い思いをしたので寒く「感じた」のかもしれないが、違う。吐く息は白く、鏡は曇る。「私が」物理的に寒いのだ。ヘッドセット&ヘッドホンに包まれた頭を動かした分だけ、世界の「見え」と「聞こえ」が変わってくる。あの、空気の感じを、肌だけではなく眼でも知覚してたんやね。 ラバーハンド実験もそう。自分の手を隠し、代わりに物そっくりのゴム製の手を並べておく。ゴムの手に対し、ブラシで撫でたり、氷を近づけると、隠した自分の手が「触られている」「冷たい」と錯覚してしまう実験だ。あるいは、「停止したエスカレーター」を歩いたことはあるだろうか? あの黒い階段は動いているという思い込みのため、足の踏み出しが難しく感じたことはないだろ

    私の境界は外に開いている『具体の知能』
  • 不治の精神病者はガス室へ『夜と霧の隅で』

    きっかけはこのツイート。 人工透析のあり方を叩いていた人は、北杜夫の「夜と霧の隅で」も読んだことはないだろうな。ナチスが一番最初に大量殺戮したのは、ポーランド人でもユダヤ人でもなく、偉大なるドイツ帝国建設に役立たないとされた精神病者や障碍者だった事実。 — 半歩前進 (@hanpozenshin) 2016年9月27日 北杜夫といえば『どくとるマンボウ』や『楡家の人びと』しか読んでいなかったが、こんな重い話を書いていたなんて。しかも、これで芥川賞を受賞していたなんて。hanpozenshinさん、ありがとうございます。 そして、読んだら頭を殴られた。これは、治る見込みのない精神病患者を「無益な人間」として安楽死文では安死術)させる話。知能に障碍を持つ子どもが次々とバスに乗せられる冒頭は、映画そのもの。どこか空想上のディストピアではなく、第二次大戦時のドイツだ。ナチスは「遺伝病子孫防止法

    不治の精神病者はガス室へ『夜と霧の隅で』
    benzina
    benzina 2016/09/30
  • わかりやすいデザインの教科書『ノンデザイナーズデザインブック 第4版』

    企画書、提案書、レポート、プレゼンのスライドなど、資料を作るあらゆる人にお薦めしたい名著『ノンデザイナーズデザインブック』の新版が出たので、あらためてお薦めする。 かつては「新人にお薦め」と言っていたが、新人でも知ってる人は知ってるし、お歳を召してもダメな人は一定数いる。なのでこれは、社会経験というよりも、「知っているか否か」だけなのだ。何を知っているかというと、「伝えたいことを明確で分かりやすくアレンジするには、どこに目を向ければいいか」である。もっと具体的に言うと、上司や指導者から「おまえの資料はイマイチだ、なぜならココが○○だから……」という試行錯誤したことがあるか否かだ。 この「変更前」「変更後」を比べるのは、ものすごく勉強になる。なぜなら、自分が作った「変更前」だけを眺めても、イマイチなのは分かるが、どこがイマイチなのか言葉にできない(指差せない)から。上司からダメ出しをらって

    わかりやすいデザインの教科書『ノンデザイナーズデザインブック 第4版』
  • 『小説・秒速5センチメートル』の破壊力について

    3編にわたるオムニバス形式で、初恋が記憶から思い出となり、思い出から心そのものとなる様を、驚異的なまでの映像美で綴っている。 ノスタルジックで淡く甘い展開を想像していたら、強い痛みに見舞われる。わたしの心が身体のどこにあってどのような姿をしているのか、痛みの輪郭で正確になぞることができる。予備知識ゼロで観てしまったので、徹底的に打ちのめされた。涙と鼻汁だけでなく、口の中が血の味がした(ずっと奥歯を噛みしめていたんだと思う)。初めて観終わったとき、それほど長い映画でもなかったのに(1時間とすこし)、疲労感で起き上がれなくなった(ずっと全身に力を込めていたんだと思う)。 何度も観ているうちに、「それを観たときの出来事」が層のように積まれていく。どんな季節に、誰と/独りで、何を思い出しながら観たかが、痛みとともに遺されていく。あるときは彼の気持ちになり、またあるときは彼女に寄り添い、観たという記

    『小説・秒速5センチメートル』の破壊力について
  • 絶望保険『絶望読書』『なぜ私だけが苦しむのか』

    いざというときが、いまというときであり、  いまというときが、いざというときである。 この「いざ」と「いま」を分けて考えているから、いざというときには間に合わない。だから常日頃、考えろと300年前のモノノフは言った。300年後のわたしは考える代わりに保険に入り、「いざ」というときに役立ちそうな保険を読む。 絶望の淵に立ち、「なぜ私だけが苦しむのか」と問いたくなったときに読むなら、文字通り『なぜ私だけが苦しむのか』を推す。病や事故、わが子や配偶者の死など、立ち直れないほどの出来事に遭遇したとき、人は宗教に救いを求める。だが、宗教はあまり役に立っていないという。ほとんどの宗教は「起こってしまった悪いこと」に対し、神を正当化することにかまけ、嘆き悲しむ人に寄り添っているものは少ないからだという。 いま読まなくてもいい、タイトルだけを頭の片隅に入れておくか、棚のあそこにあると意識しておくだけでい

    絶望保険『絶望読書』『なぜ私だけが苦しむのか』
  • 動いているコードに触るな『失われてゆく、我々の内なる細菌』

    プログラマの格言に、「動いているコードに触るな」がある。ビジネス環境の変化に合わせ、巨大なシステムを維持・改善していく上で、ほぼ原則といってもいい。 その意味はこうだ。長いこと複雑怪奇な状態なのに、なぜか正しく動いているプログラムに対し、不用意に手を入れると、思いもよらない不具合が出る(これをデグレードという)。一見冗長で、まわりくどく無駄なことやっているようなので、よかれと思って直す。すると、触った部分とは関係なさそうな別の場所・タイミングで、予想外の動作をする。結果、因果が特定できないまま解析が長引くことになる。きちんとリソースを充てて改善するならともかく、「なぜ上手く動いているか」が分からないまま改修するのは、非常にリスキーなのだ。 人体に常在し、ヒトと共進化してきた100兆もの細菌群を「マイクロバイオーム」と呼ぶ。このマイクロバイオームの多様性を描いた書を読むと、抗生物質の濫用に

    動いているコードに触るな『失われてゆく、我々の内なる細菌』
  • 科学者の生産性を決めるもの『科学の経済学』

    初見はナンセンスだと思った。 科学に「生産性」は相容れないものだし、科学者は労働者でないから。むかし、電気が何の役に立つのかと問うた政治家に、「20年もたてば、あなたはこれに税金をかけるようになるだろう」と返した科学者の小話や、その別バージョン「生まれたての赤ん坊は、何の役に立つのでしょうね」あたりが思い浮かぶ。 ところが、そこに斬り込んだのが書になる。科学を経済学の視点から分析し、科学の持つ公共的性格と報酬の構造や、経済効率性と資金調達方式のメリット・デメリット、先取権(プライオリティ)のインセンティブとイノベーションの関係を、統計的手法を用いて明らかにする。 企業や大学の研究職に携わる人にとっては心穏やかではないかも。科学の市場化に伴い、ただでさえ専門外の資金調達に汲々としているのに、論文数や被引用数、取得した特許などで「科学の生産性」を計測しようとする働きかけは、いわば文系からの理

    科学者の生産性を決めるもの『科学の経済学』
  • 女、夜、死という三つの切り口を通して、広告で社会を語る『女と夜と死の広告学』

    女、夜、死という三つの切り口を通して、広告のありようを探った一冊。 欲求を煽るのが広告なら、その変遷は欲望の歴史になる。反対に、広告が象徴するものを振り返ることで、それについて人々がどんな考えを抱いてきたかの変化を垣間見ることができる。わたし自身が気づかなかった観念の変化を「広告」の鏡で知らされるような、なかなか楽しい体験をした。 書は、広告を使って時代の見取り図を描こうと試みる。広告は、どこにでも転がっていながら、人々や企業の欲望や時代の無意識が混ざり合って詰め込まれているという。「これを買う人・使う人は、こんな人」という形で、広告が示す多様な自己像は、買う買わないに関係なく、それに触れる人々のパーソナライゼーションに影響を与える。これを読みほどくことで、無意識の自己像があぶりだされてくる。 特に面白いのが、アイデンティティを巡るせめぎあいが、熾烈であらざるを得ない性だという「女」に焦

    女、夜、死という三つの切り口を通して、広告で社会を語る『女と夜と死の広告学』
  • 人生は予習だ『医者とホンネでつきあって、明るく最期を迎える方法』

    がんを宣告されたとき、やってはいけない最たるものは、「検索」だろう。 不安な気持ちで薬剤や療法を検索すると、高確率で「特効」に行き当たる。「医師に殺される」「医者にかかわるな」という煽り文句で副作用をあげつらわれると、不安が不審に変わる。そして、揺らいだ心に寄り添うように、「がんが消える」と謳われると、疑う動機が小さくなる。 厄介なのは、「がんが消える」と謳っている人が、れっきとした医師だということだ。「医者の言うことだから」「100%治ると断言しているから」と思考停止になり、信じてしまうかもしれない。こういう、リテラシーが残念な人は、世の中に数多くいる。おかげで患者をいものにして肥え太る者がいる。そんな連中は、バカは死ななきゃ治らない『「ニセ医学」に騙されないために』で予習した。 だが、もし自分が大きな病気になったとき、バカにならない自信はない。なぜなら「安心」が人質にされているから。

    人生は予習だ『医者とホンネでつきあって、明るく最期を迎える方法』
  • 水は金のある方に流れる『神の水』

    これはSFなのか? 舞台や小道具が近未来なだけで、中身は骨太ハードボイルド、枯渇しつつある「水」を巡る、暴力と格差の物語だ。 俗に言う「頁を繰る手が止まらない」やつ。環境破壊が着々と進む近未来のアメリカを舞台に、奪うもの、守るもの、目撃するもののそれぞれの運命が「水」に翻弄される様は、寝るタイミングを逸する。 しかも、最初は異なる立場だったものが、「水」を中心に縒り合わされてゆく構成は、お見事というほかない。持てるものはシェルタリングされた都市に逃げ込み、貧者は国内で難民化する社会。もともと半砂漠地帯だった中西部は深刻な水不足に陥り、水利権をめぐり州どうしが対立・衝突する状況になっている。 「調べて結論を出すべきことがらだったのに、信じるかどうかという問題におとしめてしまった」のように、いま読者が目にする警告が、過去形にして自嘲的にくり返されている。さらに、ドルより人民元が幅を利かせていた

    水は金のある方に流れる『神の水』
  • 『世界システム論講義』はスゴ本

    「なぜ世界がこうなっているのか?」への、説得力ある議論が展開される。薄いのに濃いスゴ。 世界史やっててゾクゾクするのは、うすうす感じていたアイディアが、明確な議論として成立しており、さらにそこから歴史を再物語る観点を引き出したとき。「こんなことを考えるの私ぐらいだろう」と思って黙ってた仮説が、実は支配的な歴史観をひっくり返す鍵であることを知った瞬間、知的興奮はMAXになる。 たとえば、「先進国(developed)」と「途上国(developing)」という語に、ずっと違和感があった。「後進国」は差別的だからやめましょうという圧力よりも、この用語そのものが孕む欺瞞を感じていた。 なぜなら、この語の背景として、近代化・工業化が進むというプロセスがあるから。なんなら、進化のメタファーを使ってもいい。産業構造が一次から高次に転換するとか、封建社会から資主義社会に"進化"するといった欧米の経済

    『世界システム論講義』はスゴ本
    benzina
    benzina 2016/02/10
  • わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: 松岡正剛の読書術

    をッ!というを検索すると、たいてい千夜千冊に突き当たる。セイゴォ式ウンチクに耳をかたむけつつ、類書を漁る。いわゆる「ソレ読んだら、コレなんて、どう?」的なオススメ。しかも肝をつかみとって教えてくれるので、これだけで読んだ気になれる。 「読書とは編集だ」と言い切るセイゴオ読書術は、なかなか面白い。読書術や読書論は、千夜千冊(全8巻)のあちこちに散らばっているが、特別巻「書物たちの記譜」にまとめられている。中でも、わたしにピクッとキたものをピックアップしてみよう(太字化はわたし)。 ■00 読書の謎 そこ(非線形読書のすすめ)に何を書いたかというと、われわれは読書によって書物にしるされていることを読んでいるとはかぎらないということを告げた。われわれは読書しているあいだに、アタマのなかで勝手な連想や追想や、疑問や煩悶をおこしているわけだから、ごく控えめに言っても読書とは、テクストの流れと自分の

    わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: 松岡正剛の読書術
    benzina
    benzina 2015/12/21