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ブックマーク / www.newsweekjapan.jp/column (16)

  • 人質殺害事件に寄せて

    人人質事件は、残念な結果になった。 昨年六月に登場して以来、その残虐さで国際社会を震撼させてきた「イスラーム国」が、いかに深刻な問題かを、日は遅ればせながら実感したことになる。 この問題について、筆者はあまり語ってこなかった。少ない情報で、しかも人命がかかっていることで、あれこれ語ることがいいとは思えなかったからだ。この事件に関する日の報道を見ていると、解決に逆効果をもたらしたのではないかと懸念する。 そもそも、国内の普通の誘拐事件だったら、ここまで情報や憶測を垂れ流しにしただろうか。こうすればよい、ああすればよい、といったコメントが、いちいち日側の手の内、対応を犯人に晒しているとの自覚はなかったのだろうか。 犯人が海外だから、日国内で交わされる議論は聞こえないとでも思っているのかもしれない。だが、ネットに掲載される情報は日語でも簡単に自動翻訳にかけられるし、テレビ画像でもY

  • 嫌イスラームの再燃を恐れるイスラーム世界

    シャルリー・エブド誌襲撃事件は、世界を震撼させている。欧米諸国を、というより、世界中のイスラーム教徒を、だ。 フランス版9-11事件ともいえるほどの衝撃を与えたこの事件に対して、イスラーム諸国は即刻、テロを糾弾し、フランスへの哀悼を示した。フランスと関係の深い北アフリカ諸国や、経済的なつながりの強い湾岸諸国はむろんのこと、ほとんどの中東の政府、要人が深々と弔意を示している。エジプトにあるスンナ派イスラームの最高学府たるアズハル学院も事件への非難声明を出したし、欧米諸国から「テロリスト」視されているレバノンの武装組織ヒズブッラーですら、惨殺されたフランスの漫画家との連帯を表明している。 意地悪な見方をすれば、この事件がイスラーム教徒の「踏絵」と化しているともいえる。ちょっとでも犯人側をかばうような発言をして、今後吹き荒れるのではと懸念される欧米での嫌イスラーム風潮に巻き込まれて、「テロリスト

  • イラクはどこまで解体されるか

    6月10日に北部モースルが陥落して以降、イラク分裂の危機が現実性を持って語られるようになった。「イラクとシャームのイスラーム国」(ISIS)勢力は、北はモースルからティクリートまでを、西はファッルージャからバグダードに向かうルートを制圧し、さらに東方のディヤーラ県まで勢力を拡大している。ISISの制圧地域が地理的に「スンナ派地帯」だからというので、「イラクの宗派別分裂」が言われるのだが、事態はより深刻だ。なぜなら、分裂は地理上の問題ではなく、現政府が一つのまとまった国家領域としてのイラクを守ろう、という意思と能力がないことが、露呈されたからだ。 モースルが陥落した際に、これを守るべきイラク国軍はさっさと逃げたと、前回のコラムで述べた。イラク国軍や警察は、イラク国民をではなく、自らの宗派や民族を守ることにばかり、専念しているのだ。それだけではない。マーリキー首相をはじめとして、政府要人たちの

  • ものづくり信仰が日本企業をダメにする

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔4月29日/5月6日号掲載〕 ものづくり。日でこの言葉を聞かない日はない。テレビでも新聞でもラジオでも、日人は何かを職人芸的につくり上げる自分たちの能力を自賛する。 当然かもしれない。弁当箱から名刺入れ、半導体に自動車まで、日人は優れたものを異常に低い欠陥率で大量生産する驚くべき能力があるようだ(何百人もの踊り手が一糸乱れずに踊る阿波踊りは、その能力の文化面での表れだ)。 こうした日の工業製品の長所は世界中で認められていて、日ブランドの信頼性を高めている。特に安全性が重視される製品(自動車や、もしかすると次世代の発電所や飛行機)ではそうだろう。 「中国では日製エレベーターがよく使われている。中国人は日製品を信頼していて、日のエレベーターなら命を預けていいと思っている」と、香港の投資会社CLSAのアナリスト、クリスチャン・ディンウディー

  • シリコンバレーの意外な差別カルチャー

    外からはイノベーションと富を生み出す稀な土地と見られがちなシリコンバレーだが、実はいろいろな意味で二極化してきている。 ひとつは、よく知られた「持てる者」と「持たざる者」のギャップ。とくにサンフランシスコ市内では、テクノロジー会社の高給取りが大挙して引っ越してきたために、家賃が急上昇して店員や教師、警察官などごく普通の職業の人々が住みにくくなっている。シリコンバレーでも住宅の価格は上がっており、初めてのマイホームを買おうとしても、中間値の住宅が実際に買える人は希望者の半分程度だという。残りは、すでに持っている家を売って買う場合が多い。シリコンバレーでゼロから始めようとするのは難しくなっているのだ。 シリコンバレーのエンジニアの給料は平均10万ドルと言われる。アメリカの世帯あたり所得の中間値は5万3000ドルなので、かなり高い。だが、これも機会によって一様ではない。フェイスブックに乞われて転

  • ロボット・ジャーナリストの登場で記者は用済みに

    ロサンゼルス・タイムズ紙が、地震速報をロボット・ジャーナリストを使って報じたことが話題になっている。 さる3月17日早朝、揺れで目を覚ましたケン・シュウェンキ記者は、ベッドから飛び起きるやいなやコンピュータに向かった。そこにはすでに地震速報の記事が生成されており、シュウェンキ記者は「パブリッシュ」のボタンをクリックしただけ。 記事には、アメリカ地質調査所による震度、マグニチュード、震源地などが記されているだけではなく、「揺れは南カリフォルニアの幅広い地域で感じられた」とか、「過去10日間で、同じ地域を震源地とするマグニチュード3.0以上の地震は起こっていない」などと書き足されていて、まったく機械的とばかりは言えない、気をまわした表現も使われている。 このロボット・ジャーナリストのニュースは、われわれのような「書く」ことを職業する人間に考えさせるものがある。ポイントはふたつあるだろう。 ひと

  • 「SHERLOCK シャーロック」ブームに思うこと

    にもファンの多い、イギリスBBC製作のドラマ「SHERLOCK」(以下、「シャーロック」)の最新シリーズを、中国にいるわたしは一足先に堪能させてもらった。中国では、2年間ファンを待たせ続けたプレミア放送が国イギリスで始まった2時間後に、BBC提供の中国語字幕付きが動画サイト「優酷 YouKu」で配信されたのだ。朝7時という時間にもかかわらず、配信から24時間のうちになんと500万回も視聴されたという。 香港紙『サウスチャイナ・モーニングポスト』は、「優酷」はその配信権の取得に1億人民元(約17億円)以上をかけたと伝えている。とはいえ、他のメディアは一切伝えていないので確証はない。ただキャメロン首相は一昨年にダライ・ラマと会談して中国にずっと無視され続けた後初めての訪中だったため、超低姿勢を貫き通し、英メディアには「土下座外交」とまで揶揄された。ネットで一度はファンからの要請をやんわり

    「SHERLOCK シャーロック」ブームに思うこと
    beth321
    beth321 2014/01/23
  • テロリストを英雄に仕立てる韓国の幼児的ナショナリズム

    安重根という名前を知っている日人はほとんどいないと思うが、韓国では「抗日闘争の英雄」である。といっても彼は建設的な事業をしたわけではなく、1909年に日の初代韓国統監だった伊藤博文を暗殺したテロリストである。 ところが韓国の朴槿恵大統領は、彼が伊藤を暗殺した中国のハルビン駅に記念碑を建設することを中国側に提案し、それが「順調に進んでいる」と表明した。テロリストを英雄として賞賛することも先進国では考えられないが、暗殺事件から100年以上たって記念碑を建てようと他国に提案する大統領も普通ではない。 この一つの原因は、韓国があおっている反日感情の歴史的根拠がないことにある。韓国は1910年の日韓併合から終戦までの時期を「日帝36年」として批判しているが、その時期に日の朝鮮総督府が韓国人を虐待した記録はほとんどない。一時は「強制連行」や「従軍慰安婦」などを持ち出したが、それも事実と異なると判

  • 「建築のジェノサイド」に気付かない日本

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔9月3日号掲載〕 鎌倉を世界文化遺産に登録しないように──ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関イコモス(国際記念物遺跡会議)がそう勧告したことを受け、松尾崇・鎌倉市長と黒岩祐治・神奈川県知事は会見で無念さをにじませた。 鎌倉市当局は中世の都市としての「物的証拠が不十分」と指摘されたことを認め、私にこう説明した。人類の遺産として保護する価値があると世界に認めてほしいのは、鎌倉を取り囲む山々とその麓に点在する寺院や遺跡だ。そこに日独自のサムライ文化があると自分たちは考えているが、イコモスにはその意図が十分伝わらず、「武家の古都」とする根拠が不十分だと判断された、と。 黒岩知事は今回の勧告に「目の前が真っ暗になるような衝撃を受けた」と語った。こんな妥当な判断に衝撃を受けているようでは、知事の体が心配になる。そもそも県の誇る珠玉・鎌倉がじわじわ破壊さ

  • 北京の夢

    「ぼく、仕事辞めたよ。大連に行くことにした」 劉くんがぼそっと言った。まさか、と思いつつ、「旅行?」と尋ねたら、「ううん、水曜日に引っ越すんだ。別に持っていくものもないんだけど」と答えた。それを聞いて「やっぱり...」と心のなかでつぶやきつつも、何を言っていいのか思いつかず言葉が出てこなかった。 言葉が見つからなかったのは、劉くんには申し訳ないが、彼が北京からいなくなることがショックだからではなかった。だが、「キミまでもが!」という思いが先走ったからだ。彼自身に何があったのか尋ねる前に、頭のなかを今年すでに北京を離れた知り合いの、さらにそのまた知り合いたちの顔が走馬灯のように横切った。その数をあとで指折り数えたら、もう10人近くもいた。 もちろん、彼らが北京を離れた理由はそれぞれだ。任期切れ、あるいは担当していたプロジェクトが終わった、あるいは結婚転職など、直接の理由だけを見ると、これほ

  • 社員旅行で眺めた日本

    5月中旬、友人から携帯にメッセージが届いた。「日では日酒と、冷たいビールと、冷たい牛乳と、冷たいジュースと、冷たい水道水をそのまま飲んでも、わたしのお腹はなんともない! まだまだべたい飲みたいと思うくらい。中国ならそんなことをしたら1日もしないうちにバッタリだわ。ここは当に素晴らしい国!」 中国IT関連企業に勤めるチャンさんは、社員旅行で初めての日滞在中だった。毎日のように彼女から届く写真とメッセージを見て、6日間の滞在を終えて帰国したチャンさんにお願いして仲の良い同僚のシュウさん、モンさん、ビンさんに集まってもらった。チャンさんが得意げに温泉地から送ってきた写真に浴衣と丹前を上手に着こなして仲良く写っていた男性3人組だ。 残業で遅くなる、というビンさんを待たずに、4人で鍋を囲みながらおしゃべりが始まった。 ――旅行に参加したのは何人くらい? シュウ:うちの社員は20人、あと旅

  • 猪瀬発言:「イスラーム初」か「アジア初」か

    猪瀬都知事の発言が原因で、オリンピックの東京招致に影が差している。 「イスラム国はけんかばかり」という侮蔑的表現が取り上げられることが多いようだが、その発言を弁解するときに「雑談のつもりだった」と言った、「イスラム圏初ってそんな意味あるのかなあ」という発言のほうが、筆者は気になる。なぜなら半世紀前に東京でオリンピックが行われたときの、最大のウリが「アジア初のオリンピック」だったからだ。 そこで思い出したのが、1964年の東京オリンピックの際のゴタゴタである。 問題が起きたのは、オリンピック開催まであと2年強となった1962年8月、インドネシアで開催されていたアジア競技大会でのこと。この大会に、イスラエルと台湾の参加がインドネシアによって拒否されたのである。インドネシアは、インドのネルー首相やエジプトのナセル大統領と並んで、1955年以降アジア、アフリカ諸国を席巻していた非同盟諸国運動の中核

  • 政治家を育てる質問

    12月16日の衆議院選挙投票日。テレビ東京の開票特番「池上彰の総選挙ライブ」を担当しました。 放送中から思わぬ反響をいただき、テレビ東京にはいまも再放送やDVDの発売を求める声が寄せられているそうです。 テレビ東京の人たちはもちろんのこと、外部スタッフが総力を挙げて制作・放送したものですから、当然の評価とはいえ、その一翼を担った私も嬉しく思います。 いつも「いい質問ですね」が口癖の私としては、視聴者に「いい質問ですね」と言ってもらえる内容を目指したからです。 ただ、党首や候補者への私のインタビューは、ジャーナリストとして当然のことをしたまでで、これに関する評価は面映ゆいものがあります。 というのも、たとえばアメリカテレビ政治番組なら、政治家に対しての容赦ない切り込み、突っ込みは当然のことだからです。 日なら「失礼な質問」に当たるようなことでも、平然として質問をしますし、質問を受けた側

  • NY地下鉄で死ぬ直前の男の写真が撮られたとき、他の乗客は何をしていたか

    ニューヨークのタブロイド紙『ニューヨークポスト』が火曜、前日に地下鉄駅で起きた事故を報じた。いや、正確には事故になる瞬間を報じたと言った方が正しいだろう。 乗客同士の言い争いで50代の男性がホームから突き飛ばされ、そこに入ってきた電車に挟まれて死亡した。ニューヨークポストが1面で大きく掲載した写真は、ホームに手をかけ数メートル先に迫った電車のほうを振り返った男性の姿を捉えている。タイトルは、「万事休す、線路に突き落とされた男が死に行く瞬間」。 この事件は、いくつもの意味でいたたまれない気持ちにさせる。 まずジャーナリズムの観点から、こんな写真を載せる必要があったのかという点。数秒後に死のうとしている人間の姿を晒すことに、センセーショナリズムを煽る以外の意味があるのか。 もし事故の様子を伝えることが目的だったのならば、文章で説明し、写真は意図的に掲載しないという選択肢もあっただろう。だが同紙

  • 尖閣騒ぎを大きくした真犯人は誰だ?

    今週のコラムニスト:李小牧 〔9月12日号掲載〕 路上だけでなく、大通りに面したあらゆるビルから人々が熱狂的な声援を上げる──。思わず、文化大革命を発動した毛沢東が天安門広場に100万人の紅衛兵を集め、接見したときの様子を思い出した。ただ、私が今回目にしたのは文革のような政治運動ではない。ロンドン・オリンピックから帰国した日人選手たちの銀座パレードだ。 銀座の沿道に集まったのは50万人。熱狂的という点で2つの「集会」は似ているが、中国人が声援を送ったのは、後に国中を大混乱に陥れた指導者。一方、日のパレードの主役は平和の祭典でメダルを獲得したヒーローやヒロインたちだ。もちろん時代も国の事情も違う。だから、これで平和的な日が優れていて、政治運動に狂った中国が劣っているなどと言うことはできない......はずだった。 そんな折、先日の尖閣諸島への香港活動家の上陸騒ぎをきっかけに、中国全土の

  • アマゾンの出版破壊から取り残された日本 | 瀧口範子 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

    人は今も「自炊」をしていると聞くたびに、気の毒で仕方がない。台所での自炊ではない。プリント版の書籍を自分で1ページずつスキャンしてデジタルファイルにし、自家製「電子書籍」として利用することを業界関係者は自嘲気味に「自炊」と呼んでいる。テクノロジー先進国の日当に起きているとは思えない、実に奇妙なできごとだ。 そしてそれを考えるたびに、アメリカでアマゾンがやっている文字通りの出版業界の破壊というか、破壊的イノベーションを思わずにはいられない。振り返ってみると、アマゾンは今やアメリカの出版産業をすっかり変えてしまっているからだ。 最初は、もちろんインターネットで書籍を販売することだった。書店を含め、これだけでもかなり大きなインパクトがあったが、電子書籍時代になって、間違いなくそれが加速化しているのだ。 たとえば、かなり安い価格で電子書籍を売り出したこと。また、自費出版したい作家たちに、

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