たなかじゅん『ナッちゃん』/82点 (第7巻までしか読んでいないという前提ですが) 学生のとき、小関智弘のルポ『春は鉄までが匂った』を読もうとして、挫折した。しかもかなりとっかかりの部分である。あのとき、思想とか世界観とか、いわば「形而上」のものに心を奪われていて、現実の物質的な富がわれわれの生活をささえそれが「思想」や「世界観」を形作っているという実感がなかったのだ(いまでもない。ただ、あのころよりは、いくらかは明瞭につながりをみることはできるようになった)。 たなかじゅんの『ナッちゃん』は、工夫の名人であった亡き父親の跡をついで、零細な鉄工所を母親と二人で切り盛りするという話である。数回かけてひとつのエピソードを完結させるという形式で、その一話一話にモノづくりの工夫がこめられている。 「できない」と思われている難問を、発想の逆転のような仕方が説いていく手法は、ごく上質の推理小説のようで