「志」という言葉を使うと、歴史愛好家には、もしかしたら維新の志士たちを思い起こさせてしまうかもしれないが、私は今これ以外の言葉が浮かんでこない。 のっけから引用で恐縮だが、第一章の書き出しだ。経済書としては意表をつくものだろう。根井雅弘氏は志士のひとり坂本龍馬の歌を引用する。 君がため捨つる命はおしまねど 心にかかる国の行く末 月と日のむかしをしのぶみなと川 流れて清き菊の下水 どちらの歌も、素直にとるだけで、憂国の想いや楠木正成を偲ぶ心が私たちにも伝わってくるが、私は歌人ではないので、もちろん、和歌の評価をするためにこの二つを紹介したのではない。ただ、龍馬が抱いたような「志」に近いものを、現在「経済学者」とふつうに呼ばれている人たちが抱いた時期があったということを示唆するためである。すなわち、一九三〇年代の世界的大恐慌の時代に多感な青年時代を過ごした人たちであり、本書の主人公サムエルソン