◇思いやり、共食と音楽から−−山極寿一(やまぎわ・じゅいち) 複数の家族を含むコミュニティーは、サルや類人猿には見られない人間だけの特徴だ。家族とコミュニティーはそもそも維持される原理が違う。家族は見返りを求めない援助と協力によって、コミュニティーは集まることで利益が得られるような互酬性や規則によって、それぞれ成り立っている。しばしばこの二つの原理は拮抗(きっこう)する。地域社会の厄介者が、家族では最良の父親という場合があるのだ。その矛盾に耐えられないから、サルや類人猿はどちらかの原理により強く依存して群れを作る。 ではなぜ、人間だけが家族を温存したコミュニティーを作ったのか。その背景には文化的な理由より、生物学的な要因が大きく関与していたと私は考えている。 最近、オランウータン、ゴリラ、チンパンジーなど類人猿の野生における成長や繁殖の特徴が明らかになって、人間の生活史の不思議な側面が浮か