戦争で心に傷を負った人たちがいることを知ったのは、今から約40年前、精神科医になったその年からだった。 しかし、当時はそのことが、私にとって重要な課題になるなどとは考えもしなかった。私の精神医学の根幹を支える重要な課題であると決定的に考えるようになったのは、ここ10年ほどだ。戦争が人々の心に傷を負わせ、そのことが世代を超えてさまざまな形で伝搬され、後の世代に精神症状として表出されていることを知り始めたとき、目の前にいる患者さんたちの理解がもっと深まってきたと考えている。 ここでは、私のささやかな精神科医としての歩みを辿りながら、戦争による心の傷に触れてみたい。 加害者の苦しみ 大学を卒業し、精神科医局に入局した年の秋だった。遠戚の叔父が脳梗塞で倒れ、意識が回復した直後に呼び出された。彼は、父方の遠戚(遠戚ではあったが、なぜか父とは仲がよかった)の人で、戦前に大学を卒業し、大企業に就職したも