ベトナム帰還兵の現実を綴った「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」 その夜、ブルース・スプリングスティーンは自宅の部屋で椅子に座っていた。机には1冊のノート。ページをめくると、ベトナム帰還兵をテーマにした書きかけの歌詞の断片がある。机にはもうひとつ、送られてきた映画の脚本が置かれていた。 ブルースはギターを手に取ると、コードをつま弾きながら、その歌詞の一節をなぞるようにして歌った。そして、まだ開いていない脚本に目をやり、表紙に書かれたタイトルを口ずさんでみた。 「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」(アメリカで生まれた) ベトナム戦争が終結してから10年あまりがたっていた。帰還兵の多くが負った肉体的・精神的な傷は大きく、そのことに対する世間の不理解が、彼らの社会復帰を一層難しいものにしていた。 ブルースが帰還兵についての歌を書こうと思ったのは、米国ベトナム戦争退役軍人会の代表だったボビー・ミューラ