本能のみで生きるモノ 不思議な現象ただ描く 異形の生命体「蟲(むし)」とヒトとの奇妙な交わりを描く『蟲師』(講談社、既刊7巻)が静かな人気を呼んでいる。作者・漆原友紀さんへのインタビューを通じて、最近の新しい妖怪漫画の流れについて考えてみたい。(石田汗太) 『蟲師』がこれまでの妖怪漫画と異なる大きな点は、まず背景となる世界観にある。登場人物の大半が着物で、漠然と明治ごろを思わせるが、舞台は山村や漁村ばかり。文明の利器は一切出てこない。 そんな淡彩の世界を、白髪・隻眼の蟲師ギンコが飄々(ひょうひょう)と行く。背中の木箱には「蟲封じ」のための奇妙な道具がぎっしり。彼は、蟲がヒトに引き起こす様々な障りを治療する「医者」であり、蟲の生態を調査する「学者」でもある。 蟲とは、微生物などよりさらに「生命の原生体に近い」モノとされ、様々な形態を持ち、普通のヒトの目には見えない。時に一村を滅ぼすほどの災害