学生時代、わたくしがはじめて手にした漢文の歴史書は、趙翼の『廿二史箚記』だった。学部2年生の史料講読のテキストに用いた。卒業まで3年間つきあい、漢文史料の訓読、出典の調べ方、解釈の基礎をならった。テキストは、入手しやすかった台湾の世界書局刊行本であった。句読点はついていたが、小さな活字がぎっしり並んでいる。最初見たときは、吐く息をわすれた。ただ1年もたてば、漢字の行列も平気になった。これが、史料講読の最大の成果だった。 大学の教員となってからも、中国通史のテキストがわりに『廿二史箚記』を史料講読に用いた。理由は、もはや言うまでもなかろう。中国史専攻の教員・学生は、たいていなんらかのかたちで『廿二史箚記』の恩恵をこうむっているはずである。ちなみに、いまは老眼が進み、字が大きい『史学叢書』所収本と謙謙舎版和刻本を使っている。